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“否定されない”街だからできる実験たち。 アイラブの下北沢愛のカタチ。

地域密着型サイト・アプリ「I LOVE 下北沢」の運営や、下北沢カレーフェスティバル、古着マーケットなど街のイベント運営を通し、下北沢の魅力を発信し続けている「株式会社アイラブ」。アイラブは、なぜ活動の地に下北沢を選んだのか、どんな思いでこの街と接しているのか、そして今後この地で何を実現したいのか。今回は、“下北沢愛”に溢れた西山友則さん(代表取締役社長・写真中央)、阿部達哉さん(取締役・写真左)、赤坂天羽さん(写真右)にそれぞれの視点から話を聞いた。

 

ITで分断されたコミュニケーションを、ITで繋ぎ直す

―初めに、アイラブが下北沢でどんなことを手がけているか教えてください。

西山:“タウンマネジメントのDX推進”を目標に、主に3つの事業を展開しています。
まずWebサイト・アプリ「I LOVE 下北沢」のサービス提供です。コンテンツ内容は主にイベントや新店などをはじめとしたリアルタイムな街の情報や、ランチ・古着などトレンドに合わせた特集で、中でも下北沢の求人情報は人気です。
2つ目は下北沢カレーフェスティバルや、はしご酒イベント「ばるばる下北沢」などの街をベースにしたイベントの企画や運営。
そして3つ目は下北沢限定の電子地域通貨「シモキタコイン」のサービス構築です。

左から、阿部さん、西山さん、赤坂さん

 

―どんな経緯でタウンマネジメントのDX推進を事業化しようとされたのでしょう?

西山:我々のグループ会社の多くはBtoBのITソリューション開発を手がけているのですが、親会社・パイプドHD(株)の社長はもともと都市計画を学んでいたこともあり、「ITによって分断された地域性を、ITでもう一度繋ぎ直したい」という思いからアイラブが生まれました。ITサービスの拡大で効率化は進んでも、例えばお隣に醤油を借りにいくようなリアルなコミュニケーションが希薄になっていく地域社会を目の当たりにし、責任を感じたようです。であればITの利便性を保った上で、リアルなコミュニケーションを進化させた形で地域に根付かせることはできないか、という考え方が根底にあります。

 

課題がある街だからこそ、関わる意味を見出せる

―その考えを実現する地に下北沢が選ばれたのは、なぜなんでしょうか?

西山:その街ならではの文化がありつつ、課題もある街という視点で下北沢を選びました。課題が明確にある街の方が、解決策としての企画を具現化しやすいのでは?と考えたからです。
例えばその課題のひとつが、約10年前の創立当初、下北沢は古着やバンド・ライブハウスブームが落ち着いた頃で、駅の乗降客数が減っている状況だったこと。街全体にもう一度賑わいを取り戻したいというニーズがあったんです。

下北沢駅前で開催される古着マーケットの様子。(アイラブウェブサイトより)

―そうした課題に向き合うにあたり、はじめから街の人たちとのコミュニケーションはスムーズだったのでしょうか?

阿部:いえいえ、最初はすごく大変でした。
特に大きな実績もない中で関係性を作っていくのはなかなか厳しく、Webサイト掲載の営業で店舗を回っても、「あ、うち大丈夫だから」と門前払いのような感じで(笑)。それをがらりと変えたのは、「下北沢カレーフェスティバル」でした。このイベントはある店舗で開かれたカレー王座決定戦という企画が元になっているのですが、その店は20人しか入らないところに一日で200人くらい集まって、そこで下北沢に集う人たちのカレー熱の高さを知ったんです。それを見て、この街でカレーを出しているたくさんの店と橋渡しができれば良いイベントになるのでは?と考え、第一回カレーフェスティバルが実現しました。本当は公園や広場に多くの店舗を集めたかったのですが、下北沢にはそういった場所がないので、お客さんが店舗を回って楽しめるように街全体を使ってやろう!と。

40店舗が参加してくれたのですが、街の外からも「カレーを食べに」と目的を持って足を運んでくれた人が多く、どのお店もちゃんと集客ができて街全体が盛り上がったことから、アイラブの事業に興味を持ってくれる店舗が増えました。その成功体験を軸に、「シモキタラバーズ」という街コンや、はしご酒イベント「ばるばる下北沢」などのイベントに繋がっていきました。我々としても、人と人、人と店をつなぐ役割を担えてきたという実感が生まれてきましたね。

今年の7月〜8月には下北沢ミニカレーフェスティバルを開催予定。右は、カレーフェスティバルでおなじみのカレーまん。(I LOVE 下北沢サイトより)

夢や目標を否定されない優しさが、下北沢の魅力

―イベント以外にもターニングポイントはありましたか?

西山:あずま通り商店街の金子会長(金子ボクシングジム代表)との出会いは大きかったです。地域のいろんな人たちと繋げてくれて、街の人と仲良くなれるきっかけを作ってくれました。何か困ったことがあったら金子さんを頼ることが多かったですね(笑)。

実はカレーフェスも初期の3年ほどはあずま通り商店街が主催を担ってくれて、4回目以降はその繋がりのおかげで下北沢商店連合会(下北沢の6つの商店会からなる合同組織)が主催に、と拡大・進化しているんです。金子さんを筆頭に、この街の人は「下北沢のためなら!」って助けてくれる。それはみんな根底にこの街が好き!という想いがあって、街を“自分ごと”としてとらえているからなんですよね。

画像提供:アイラブ

阿部:そう、この街の人ってとにかく優しいんです。そして人の考えを否定しない。なぜならここにはバンドや俳優など夢を諦めた人、さまざまな挫折をした人も多くいるからだと思っていて。夢を追いかけていた人は、今夢を追いかけている人や目標をもって努力している人を応援してくれるし、相談にも親身に乗ってくれます。何かに挑戦している人の背中を押してくれる大人が多く、他の場所ではちょっとバカにされてしまいそうなことでもこの街ではそれを受け入れてくれる土壌があるんです。

赤坂:私は初めて下北沢で飲んだ日から終電を逃してしまって(笑)。一人で飲んでいたのですが、私が帰れないことを知った周りの人たちが、「じゃあ一緒にあそことあそこのお店に行ってみようよ!」と声をかけてくれて、朝まで付き合ってくれたことが印象に残っています。優しい人が多くて良い街だな、ありのままの自分でいられる場所だなと感じました。いまではその街で働けて、街の人ともたくさん関われてうれしいですね。

終電を逃したからこそ、いろんなお店を知ることができたと語る赤坂さん。梯子酒ができるのも、下北沢の魅力のひとつ。

 

西山:良い意味で面倒くささというか、人間くささが残っている街なんですよね。ITの発展で分断される危惧があるのはそういうリアルな関係性だと思うので、この街の魅力ある人間くささは大切にしたいなと思いますね。それに今後は、ITによる効率化の揺り戻しで、このような下北沢的のアナログな付き合い方が見直されていくのではないでしょうか。

 

下北沢だからこそ挑める“ITとリアルの融合”

―今後、下北沢で仕掛けていきたい“実験”はどんなことでしょう?

西山:下北沢で行われるイベントや商業施設、飲食店で利用できる電子通貨「シモキタコイン」の存在を広めて、地域の中で経済を回すのが目下の目標です。加盟店から出資を募り、加盟店が「シモキタコイン」の株主として利益の還元用途を考えていける仕組みなので、地域の人たちとこの街のために何ができるかを一緒に創出できるツールとして開発してきました。
しかしまだまだ認知度が低いのと、汎用性の部分で他の電子決済に劣る部分があり、広め切れていないという課題があります。この「シモキタコイン」の良さは、「地域に還元できる」という部分だと思うので、下北沢好きをもっと増やして、下北沢が好きだから「シモキタコイン」を使う、という流れを作っていきたいんです。

1円=1コインでチャージ。決済時に1%ポイントの還元でお得に使えるシモキタコイン。加盟店共通で使えるポイントが貯まるサービス。(アイラブウェブサイトより)

 

赤坂:「シモキタコイン」を利用するとポイント還元があり、お得に飲食ができるので、イベントの受付時にも必ずご案内するんですが、まだまだ知らない人が多いんです。「シモキタコインを使っていただくとお得ですよ」と伝えると登録してくれるのですが、イベントだけで終わらず、店舗でも使ってもらえるように訴求していきたいですね。

西山:訴求の一環として今後は「シモキタコインアンバサダー」も検討しています。普通アンバサダーはSNSで活動するインフルエンサーを採用すると思うのですが、そこも下北沢らしく街への愛がある人たち、例えば前出の金子さんをはじめとした商店会の方々にお願いすることも考えています。この街が大好きな人が使ってくれることで、その思いが伝播するようなツールになっていけばいいなと思って。

(写真中央)あずま通り商店街の金子会長(画像提供:アイラブ)

―みんな“下北沢のためなら!”と、喜んで引き受けてくれそうですし、そういった宣伝方法もこの街ならではですね。

西山:ゆくゆくは、この「シモキタコイン」を雇用とも結びつけていきたいんです。例えば「シモキタコイン」で賃金を支払い、雇用履歴などもデータベース化。それを加盟店の人たちが見られるようにしておくと、スタッフが必要になったときに声をかけられるようになりますし、「あの店で働いていたなら」とスタッフも信頼された上で雇用してもらえると思うんです。もっと具体的に言うと、例えばイベント開催期間中など街の中でヘルプし合える仕組みがあるといいな、と。下北沢には繋がりを大事にする文化が根付いているからこそ、こういった取り組みも受け入れてもらえるのではないかと考えています。

―ITとリアルが良い具合に融合された、下北沢らしい取り組みになりそうで楽しみです。

阿部:否定されない土壌があるからこそ、私たちもいろんなアイデアを出せるし、それを実現したくなるんです。下北沢はこの10年で再開発が進み、進化や成長を遂げていますが、この街の特徴であるどんな人も受け入れてくれる間口の広さは変わっていません。その魅力を最大限に生かし、私たちのビジョンでもある「いつでも、誰でも“楽しい体験”ができる街に」を体現していきたいと思っています。

Information

取材・文:古田 啓/撮影:岡村大輔
株式会社アイラブ
株式会社アイラブ
シモキタを愛している!盛り上げたい!という地域情報サイト「I LOVE 下北沢」の運営、各種イベントの企画・運営・管理、シモキタコインを活用したサービスの提供を中心とした下北沢に根付いた各種ソリューションの提供をしている。
Web
https://love-shimokitazawa.com/
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