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下北沢固有の文化性を活かした、ホテル起点の新しいまちづくり。同世代のメンバーが集った「SPICY™NEIGHBORHOOD」が仕掛ける実験とは。

2024年1月、下北沢を拠点に活動する街のクリエイターたちのローカルコレクティブ「SPICY™NEIGHBORHOOD™NEIGHBORHOOD」が始動した。同コレクティブのターゲットは、地域住民や訪日観光客。MUSTARD™HOTELを拠点に、「地域と世界の境界を溶かし、下北沢をもっと面白く。」をテーマにした様々なコンテンツ開発を行っていくという。

SPICY™NEIGHBORHOODは、海外に向けたブランド開発事業を手がける株式会社GEKIとMUSTARD™HOTELを運営する株式会社GREENINGの共同事業だ。本取り組みに賛同したパートナーたちとタッグを組み、今後イベントやメディア開発などを実施していく。SPICY™NEIGHBORHOOD発足の背景には、どんな課題感があったのだろうか。また、メンバーが思う下北沢の特徴・魅力とは。株式会社GEKIの副島弘輝さん・MUSTARD™HOTEL支配人の吉田昌平さん・パートナーである株式会社あおときの櫻井孝佑さんに話を聞いた。

下北沢に縁があるメンバーでSPICY™NEIGHBORHOODを設立

—それぞれの自己紹介とSPICY™NEIGHBORHOODにおける役割を教えてください。

副島:株式会社GEKIで事業開発をしている副島です。GEKIは企業のブランド開発やクリエイティブ制作をしている会社で、MUSTARD™HOTELさんの“らしさ”をもっと伝えていこうという取り組みからSPICY™NEIGHBORHOODの構想が生まれました。ここではプロデュース……というとおこがましいですが、全体のまとめ役をしています。僕は元々不動産のデベロッパーでハードの開発をしていて、徐々に「ハードではなくソフト、さらにコンテンツが大事だ」と思うようになりました。その想いが、SPICY™NEIGHBORHOODにも通じていると思います。

株式会社GEKI 副島弘輝さん

吉田:株式会社GREENINGの吉田です。元々はMUSTARD™HOTELのプロモーションやコンテンツ開発を担当していて、2023年10月からは支配人をしています。SPICY™NEIGHBORHOODでは場所の提供や、「ホテルでやるならこういうことができる」というアイディア出しをしています。元々、MUSTARD™HOTELのコンセプトは「街の隠し味」。街全体がホットドッグだとしたとき、ソーセージやケチャップは誰にとっても必要な要素だと思うんです。でもマスタードは好き嫌いが分かれるので、いらない人はいらないけど、好きな人にとっては「無いと物足りない」存在。SPICY™NEIGHBORHOODも同じで、刺さる人には刺さると思うんですよね。それを、MUSTARD™HOTELを舞台に街の皆さんと協力しながらやっていきたいなと思っています。

MUSTARD™HOTEL支配人 吉田昌平さん

櫻井:下北沢でデザイン会社をやっている、株式会社あおときの櫻井です。ちょうど「クリエイティブを活かした街づくりに挑戦したい」と思い始めたタイミングで声をかけていただいたので、SPICY™NEIGHBORHOODはあおときにとって良いきっかけになりそうだと思っています。あおときは下北沢の方とのつながりが多い会社なので、SPICY™NEIGHBORHOODでは商店街や自治体との接着剤的な役割を担うと思います。

株式会社あおとき 櫻井孝佑さん

—櫻井さんは、以前インタビューで「23歳からずっと下北沢に住んでいる」(※)とお話されていました。副島さんと吉田さんも、元々下北沢とのつながりが深いのでしょうか?

※参考記事:「下北沢にクリエイターが集う保育園をつくりたい」。 下北沢のデザイン会社・あおときが目論む、教育の実験とは。:https://jikkenku.tokyo/interview/2936/

 

副島:下北沢は元々「面白い街だな」と思っていたのですが、知人から「シェアハウスしないか」と誘われたのをきっかけに、1年半ほど住んでいたことがあります。その後横浜の実家に戻ったんですが、実はまた下北沢に住もうと思っています(笑)。

吉田:僕は所属する会社がreload(小田急線の線路跡地にできた個店街)の開発に携わっていたので、会社を通してこの街に縁がありました。MUSTARD™HOTELの仕事をするようになってからは近隣ショップや地元アーティストとコラボレーションする機会が増えました。住んでいるのは池尻なので、仕事だけでなく居住エリアも下北沢に近いです。

—MUSTARD™HOTELは、2021年に開業しました。下北沢に宿泊拠点ができたことで、街にはどんな変化が起きましたか?

吉田: インバウンドの方に「下北沢に泊まる」という選択肢を与えられたのかなと思っています。今は宿泊者の70~80%が海外の方なんですよ。これまでは下北沢には来ない人も多かったと思うんですが、MUSTARD™HOTELがあることで「意外と下北沢は面白い」と思ってもらえたのかなと。世界的な流れを見ても「世界で最もクールな街」(※)に選出されるなど下北沢はけっこう注目されているので、そのタイミングとも重なり、インバウンドを誘致する機会が作れているのかなと思っています。

※タイムアウト発表 The 51 coolest neighbourhoods in the world(世界で最もクールな地域)ランキング 第7位に選出(2022年)

MUSTARD™HOTEL SHIMOKITAZAWA (画像:プレスリリースより)

—海外の方が下北沢を拠点に観光するとき、主にどんな楽しみ方をされているのでしょうか?

吉田: 下北沢には古着屋や雑貨など小さなお店がたくさんあるので「それらに飛び込んでみると面白い発見があると思うからトライしてみて」と案内をしてます。楽しみ方の一例ではありますが、“いかに下北沢を深掘れるか”が楽しさでしょうか。

櫻井: 海外から見て、なぜ下北沢は「クールな街」なんでしょうね?

副島: インターネットで調べると、「下北沢はウォーカブルな街」とありました。例えば、アメリカって車社会なので路地があんまり多くないらしくて。そこと比べると、下北沢は歩いていて楽しい街なのかなと思います。

櫻井: なるほどね。世界的に見て、こういう街って意外と無いんだ。

副島: 下北沢の中だけでも西口と東口では見える景色が変わるし、そのコントラストも面白いんじゃないかな。

下北沢固有の特徴を活かしたプロジェクト

—SPICY™NEIGHBORHOODでは「地域の文化性を活かしたまちづくり/観光開発」をしていくそうですね。地域の文化性を活かすことに注目したのはなぜですか?

副島: 日本には「ありふれた場所が増えている」と思っているからです。人口が減少している一方で、モノが供給されまくっているなと。例えば再開発をすると、いろんなエリアに似たような大型商業施設ができますよね。海外のゲストが、旅行の行き先として大型商業施設を選ぶだろうか?せっかくならそこにしかないものに時間を使いたいし、選ばないだろう。……それで「日本の中で固有性があるものってなんだろう」と考えると、やっぱり「地域文化」だと思ったんです。各地域にある固有の文化をコンテンツとして見立てたら、もっと海外の人や若い世代の人を楽しませられるんじゃないか、という考えがSPICY™NEIGHBORHOOD発足の背景にあります。

—沖縄の郷土料理や北海道の海鮮、東京なら浅草の寺社仏閣などは、「地域の文化性」として分かりやすい事例だと思います。一方で、下北沢らしい地域の文化性とはなんですか?

櫻井: 下北沢は雑多ですよね。ランドマークがないからこそ、それぞれに「思い入れのある場所」がある。建物が低めに作られているから街並みもフラットだし、下北沢のなかに満遍なく多様性がある。特徴をひとことで言いきれないところが、下北沢の特徴かなと僕は思います。

吉田: カレー・古着・音楽とか、下北沢みたいに要素が色濃い街って東京のなかではけっこう珍しいですよね。しかも、どの要素もほかの街にはあんまりない。都心からのアクセスが良いし、徒歩で歩き回れるくらいのサイズ感も良い。インバウンドの目線で見ると、東京って街によって全然異なるカラーを持っているんですよ。下北沢・渋谷・代々木上原とか、近いエリアなのに全然違う。そのなかでも、下北沢は突出した癖の強さがあると思います。

副島: 下北沢は、よくも悪くもドロッとした人間関係が今も残っている場所だなと思います。都市化するとそういうのは無くなっていくけど、下北沢は人間っぽいかな。

—そういった下北沢の特徴を踏まえてSPICY™NEIGHBORHOODを立ち上げたんですね。発足当初、どんな構想を持っていましたか?

副島: 「MUSTARD™HOTELがどれだけ地域とのネットワークを広げ、地域と一緒になにかをできるか」ということを構想していました。元々、MUSTARD™HOTELは街の媒介をするという役割を持つと思っているんです。ただ宿泊するためだけの場所ではなく、街を楽しむ場所というか。ベッドを提供するだけにとどまらず街を楽しむ場を提供したいと思ったとき、個人的には「MUSTARD™HOTEL単体でいろいろやっても意味をなさない」と思っていて。小さな取り組みだったとしても、「点ではなく線でやっていきたい」と考えていました。

吉田: 仰る通りですね。ホテル単体でやろうと思っても、365日24時間営業していて日々の運営がありますから、追いつかない。「なにかやりたい」とは思っても、実現するヒューマンリソースが無いところに課題を感じていました。そこにお話をいただいたので、お互いの想いが合致してSPICY™NEIGHBORHOOD立ち上げに至ったというところですね。

SPICY™NEIGHBORHOODで実施するプロジェクトとは

—1月26日から、SPICY™NEIGHBORHOODの取り組みとして、下北沢で活動するクリエイターの作品を客室やエントランスに展示する「CREATORS IN MUSTARD & SPICY™NEIGHBORHOOD™NEIGHBORHOOD」を実施しているそうですね。

吉田: もともと、MUSTARD™ HOTELでは「CREATORS IN MUSTARD」として海外のアーティストさんの作品を客室やエントランスに展示していました。「CREATORS IN MUSTARD & SPICY™NEIGHBORHOOD™NEIGHBORHOOD」はこの取り組みのローカライズバージョンみたいな感じですね。せっかく下北沢に泊まって遊ぶなら、アートが街に繰り出す理由になったら良いなと思っていて。下北沢でお店を出している方の作品も展示しているので、これがきっかけなったら良いな。

ロンドンを拠点に活動するアーティスト・Lucas Dupuyの作品(画像:MUSTARD™ HOTEL公式サイトより)

副島: 個人的に、下北沢に遊びにきたゲストが渋谷・新宿ではなく「下北沢でどれだけ時間を過ごしてもらえるか」が重要だと思っています。つまり、いかに下北沢で長く過ごし、ここでお金を使ってもらえるか。アートがきっかけで下北沢の滞在時間が延びるみたいなところも、アートやコンテンツの役割だと思っています。

櫻井: 下北沢って夢を追う人たちが集まる街だし、そういう足の止め方って良いね。

—今後はどんなプログラムを実施する予定ですか?

副島: 月1回のペースでイベントを打とうと思っています。直近では、2月24日にクラフトビールのローンチパーティーを行いました。

画像:プレスリリースより

櫻井: 3月末には「未来の下北沢を作ろう」というコンセプトのマルシェをやる予定です。僕は下北沢を青と黄の街にしたいという夢があるので、実験的に青と黄色のカレーを作ったりしてみようかと。

—3月には「NEIGHBORHOOD’S KIOSK」をオープンするそうですね。このプロジェクトではどういったことをやるのでしょうか?

副島: MUSTARD™ HOTELさんに、SPICY™NEIGHBORHOODが開発したお土産を置きたいと思っています。また、それをベースにして地域の事業者やクリエイターとコラボしてモノを作っていきたいなと。現在いろいろと調整中です。

—4月には「NEIGHBORHOOD’S PLAYLIST」をローンチするそうですね。これはどんなサービスですか?

副島: MUSTARD™ HOTELのHPのなかに「SHIMOKITA PLAYLIST」というページをつくって、下北沢の人がオススメする「下北沢の最高の過ごし方」を音楽のプレイリストと一緒に公開したいと思っています。SPICY™NEIGHBORHOODメンバーの人数分、それができたら良いなと。

—なぜ下北沢の過ごし方と音楽を一緒に紹介するのでしょうか?

副島: 例えば、ジャズ的な過ごし方とヒップホップ的な過ごし方って違うと思うんですよ。ゆったり過ごしたい人はジャズのプレイリストを選ぶみたいなことができたら良いなと思っていて。

吉田: いきなり「MUSTARD™ HOTELの吉田が選ぶ下北沢のオススメスポット」と言われても「誰!?」となるじゃないですか。でも音楽の趣味が合う人とは気が合いそうだし、そのスポットに行ったら「良いね」と思えそうじゃないですか?

副島: 「この音楽好きなヤツが言ってるなら絶対間違いない」みたいな、ありますよね。

MUSTARD™HOTELを会場に定期的にイベントも開催。多くの人々が集まる(画像提供:SPICY™NEIGHBORHOOD)

それぞれの夢を実現する連帯

—今後、SPICY™NEIGHBORHOODの活動を通じて実現したい妄想を教えてください。

副島: 「東京下北沢らしさ」をを感じられる一棟貸しのホテルを作りたいですね。ファミリーとかで長期滞在できるような場所をつくりたい。SPICY™NEIGHBORHOODというか個人的な夢ですみません(笑)。

櫻井: 僕的に、SPICY™NEIGHBORHOODは個人の夢のためにお互いのリソースを使い合うみたいなイメージですよ。

—SPICY™NEIGHBORHOODには、個人の夢を実現する連帯のような意味合いもあるんですね。

櫻井: そう思えた瞬間に、構えていた気持ちが楽になりますよね(笑)。先ほども言いましたが、僕は下北沢を「青と黄の街にしたい」という夢があるので、その一環としてWEB3(ブロックチェーンなどの技術によって実現される次世代の分散型インターネット)とデザインをかけ合わせた街づくりに取り組んでみたいと思っています。あと下北沢にはランドマークが無いのが良いという話もありましたけど、なにかランドマークになるような、青と黄の建物を作るのも夢ですね。

吉田: MUSTARD™ HOTELとしては、下北沢の“要素”を逆輸入してポップアップしたら面白いかなと思っています。例えば海外のカレーショップのポップアップをホテルでやるとか。ただリトル下北沢みたいなことをここでやってもあまり意味がないと思うので、「下北沢はこういう街なんだよ」とホテルで紹介しつつ、できるだけ下北沢の街で出会ったものをいかにホテルの中で楽しんでもらえるかを追求したいです。例えば、下北沢で買ってきたレコードを、客室のレコードプレーヤーでかけてみるとか。下北沢の魅力を増幅させられるようなホテルになれたら良いかなと思っています。

櫻井: それはすぐにでもできそうだね。もっとぶっ飛んだ夢も聞きたい(笑)。

副島: 僕は「IP(知的財産)の活用がしたい」と思ってます。例えば、下北沢が舞台のアニメ『ぼっち・ざ・ろっく』の聖地巡礼で人が訪れていますよね。ここにホテルが絡んで、原画展をやったり原画と泊まれるプランを出したりしたら、アニメの世界にもっと没入できると思います。下北沢でIPを活用して観光を盛り上げるケースができたら、ほかの地域にも適用できるんじゃないかなと思うんですよね。これができたら、日本はもっと面白くなるんじゃないかなと。あとSPICY™NEIGHBORHOODとしては、行政に対して提案ができるようになったら面白いと思ってます。地域の「こういうことをやりたい」という要望をSPICY™NEIGHBORHOODが受けることで斬新な発想が生まれるだろうし、雇用が生まれるし、それによってSPICY™NEIGHBORHOODの活動も続いていく。そういうところにも取り組んでいきたいですね。……じゃあ、吉田さん、ぶっ飛んだやつお願いします(笑)。

吉田: (笑)。下北沢でSPICY™NEIGHBORHOODの活動がうまくいけば、再開発が進んでいる地域、例えば渋谷なんかにも提案ができるんじゃないかと思ってます。渋谷って再開発が進み過ぎて、特色が消えてきているような気がして。でもきっと、まだ止められる。下北沢での成功例が、ほかの地域の文化性が消える歯止めになる可能性があるんじゃないかと思うんです。下北沢の成功例を皮切りに、僕らが思う東京の原風景を守っていきたいですね。

副島: それぞれの土地の文化性・地域性を活かしたボトムアップの取り組みが各地に広がっていったら、めっちゃ面白いですね!

Information

取材・文:堀越愛 / 撮影:岡村大輔
SPICY™NEIGHBORHOOD
SPICY™NEIGHBORHOOD
MUSTARD™HOTELを起点に、下北沢のクリエイターとともに地域住民 / 観光客が楽しめる「スパイシー(刺激的)な」コンテンツの開発を実施するローカルコレクティブ。
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