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「下北沢にクリエイターが集う保育園をつくりたい」。 下北沢のデザイン会社・あおときが目論む、教育の実験とは。

下北沢のグラフィックデザイン会社・あおとき。様々なデザイン案件を手掛けるほか、下北沢情報を発信するInstagramも運営している。メンバーは、社長兼デザイナーの櫻井孝佑さん、Instagram担当の金星香さん、デザイナーの澤島大賀さん(7月からはもう一名増え4名体制に)。それぞれの専門領域と得意をかけ合わせ、下北沢に根付いた活動をしている。

彼らには、一風変わった夢がある。それは「下北沢に保育園をつくる」こと。なぜデザイン会社が保育園?なぜ下北沢に?……話を聞くと、デザインを軸に彼らが実現したい理想の教育が見えてきた。

デザイン会社だけど、街の駆け込み寺

—株式会社あおときの事業内容を教えてください。

櫻井:デザインを軸に、イベントやプランニングなどいろんな仕事をしています。元々は紙媒体の広告グラフィックをひとりでやっていたのですが、法人化してからはWEBやロゴ制作、下北沢の地域活性化に派生した活動もするようになりました。

社長兼デザイナーの櫻井孝佑さん

—メンバーの役割分担を教えてください。

櫻井:僕と澤島がデザイナーで、金が下北沢の街インスタの運営担当。7月からは、動画をやる子が新しく入って4名体制になります。僕と澤島は同じデザイナーですけど、得意・不得意が分かれてるんですよ。デザインに0から10まで工程があるとして、僕が得意なのは0から1をつくること。澤島は1から10に伸ばすのが得意。金がインスタの取材を通じて、よく「一緒になにかやろう」と0状態の案件を持ってくるんです。それを僕が1にして、澤島が形にして……と、リレー形式でやってますね(笑)。

金:最近、街の人から「相談していい?」って言われることが増えました。例えば、下北沢で新しく事業を始めた方がいたとして「どうやって根付いたらいいか分からない。なにかイベントをやりたいとは思うけど、どう動いたらいいの?」みたいな。

櫻井:いつも「うち、デザイン会社ですよ」って言うんですけど……(笑)。

下北沢の情報を発信するInstagram担当の金星香さん

—下北沢で「なにかやりたい」と思ってる方の、駆け込み寺的存在になっているんですね。

櫻井:最近はそんな感じになってますね。下北沢が好きで情報発信していたら、それが仕事にも繋がるようになっているので、すごくありがたいです。

下北沢の“町おこし”とは?

—あおときを下北沢で創業したのはなぜですか?

櫻井:23歳で下北沢に来たのがきっかけですね。社会人1年目のころ、僕は長野のデザイン会社で働いてたんです。そこで一緒にやっていた僕の師匠が、まだ30代前半なのにバリバリ活躍していて。「この人を抜きたい!」と思ったので、長野を離れて東京に来ることにしました。師匠に「櫻井君は下北が合うと思う」と言われて、それを信じてやってきたのがはじまりです(笑)。

—下北沢で過ごしてみていかがでしたか?

櫻井:実際、合ってたと思います(笑)。8年いて知り合いも増えたし、子どもが保育園に通い出してコミュニティができたし、もうほかの地域に住むイメージがわかないですね。僕はバンド活動もしていて、コロナ禍前は下北のライブハウスに出たりもしてました。

金:櫻井さんの話を聞いてると、めっちゃ下北にどっぷりだし、大好きなんだなと思います(笑)。

—金さんはInstagramの取材を通して、下北沢の街の方とたくさん交流がありますよね。皆さんと接していて、どう思いますか?

金:私が街の人と接するようになったのは、あおときに入社してからなのでここ1年半くらいなんですよ。下北でいろんな方とお話ししていて思うのは、新しいことを始めようとする人が多いこと。そして皆さんすごくあたたかいですね。いきなり取材にいっても受け入れてくれる人が多いし、喋っているうちに仲良くなれるんですよね。つまり「なにかしたい」って人も多いし、協力してくださる人も多いんです。そんな街の人と交流するうちに、彼らの力になりたいと思うようになって…。
私、もともと町おこしに興味があったんです。町おこしといえば地方の話だと捉えられがちですが、櫻井さんと話してるうちに「下北沢でもできるんじゃない?」って思うようになって。

—たしかに、町おこしには地方のイメージがあります。下北沢における町おこしとは、どういうことでしょうか?

金:下北沢って、古いものと新しいものが共存してますよね。昔からいる人と新しい人を繋ぐのが、下北沢の町おこし=街を盛り上げることになるんじゃないかって思ってます。そこを繋ぐパイプになれたら良いなと考えるようになりました。

—澤島さんは、下北沢の街にどんなイメージがありますか?

澤島:僕は生まれも育ちも東京なんですけど、今年の1月に入社するまでは2~3回くらいしか下北に来たことなかったんですよ。まだ半年しかいないのに、もうずいぶん前からいるかのように錯覚させてくれるような街だなと思います(笑)。なんか、街全体が身内みたいな感じです。

(右)デザイナーの澤島大賀さん

「教育格差をなくしたい」北欧の教育文化を下北沢に

—あおときでは、保育園を設立することを目指しているそうですね。その原点にあるのが、北欧の教育文化への共感だとか。

櫻井:そうですね。法人化したのも、保育園をつくることを見据えた動きでした。以前からフィンランドのデザインが好きで、いろいろ見ているうちに教育にたどり着いたんですよ。それが6年くらい前なんですけど、その時期僕はデザイナーとしてすごく迷走していて。美大に行けなかったこともあって「美大出身の人に比べて自分はレベルが低い」と思ってたんです。それもあって、教育に興味を持ったんですよね。セミナーに参加したりして学んでいるうちに、「日本とは真逆の教育文化」が面白いと思うようになりました。レールに敷かれた人生を送ってきた自分にとって、北欧の環境が羨ましかったんですよ。

—日本の教育の、どんな部分に問題を感じたんでしょうか?

櫻井:やりたいことを決めずとりあえず大学に行くから、卒業してもどこに就職したいのかが分からない。いきなり放り出されるように社会人になって、なにがしたいか分からないからすぐ会社を辞めてしまう……そういうところです。北欧だと、あんまりこういうことが起こらないんですよ。なぜなら、子どものときから「社会の一員」として教育されるから。
たとえば北欧では、学校の席も時間割も決められてない。自分で選択してなにをするか決める必要があるんです。園庭も日本はキレイにならされているけど、北欧だと山を切り開いて砂利もゴロゴロあるような場所だったりするのに、命の危険性が無い限り保育士も手を出しません。北欧の教育のキーワードは「選択肢がちりばめられている」ことですね。自分で選択しながら育つので、高校のときには自分がやりたい夢が決まってるんです。なりたい職業に就けるように勉強して就職するから、幸福度が上がるんですよ。これがすごくいいなと思って。

—あおときとして保育園を作る場合、デザイン会社が運営する強みはどう活かされるのでしょうか?

櫻井:構想段階ですけど、クリエイターのシェアオフィスと保育園が一緒になっているような施設を作りたいと思ってます。ルールを決めて、クリエイターたちは週に1回は子どもたちと触れ合う時間を作るようにしたいと考えていて。子ども達にとっては新しい体験ができるし、クリエイターにとっても新しいインスピレーションが湧くきっかけになると思うんです。大人だけで話していても発想に限界があるけど、子どもの遊び心からなにかを得られるものがあるだろうと。

—金さんと澤島さんも、櫻井さんの「保育園を作りたい」という想いに共感しているんですか?

金:もちろん!

澤島:僕も櫻井さんと同じく、デザイナーであり父親なんです。アートを教育に持ち込んで、子どもの体験格差をなくす取り組みができたらと思ってます。

—体験格差とは?

櫻井:親の収入によって、子どもができる体験が限られてくるという問題です。これによって学力に差が出るし、就職や幸福度にも格差が生まれてしまうんですよ。だから、どんな子どもでもみんなと同じ体験ができて、かつクリエイターと触れ合う体験もできる保育園を作りたいんです。幼少期の体験って大事なので、うちで少しでもフォローできたらいいなと。ちょっとした体験でも積み重なれば、その子にとって良い経験になるはずですから。

—保育園をつくるとしたら、やっぱり下北沢で?

櫻井:そうですね、下北沢でやりたいです。

金:土地を募集中です。良い土地があったら、教えてください!(笑)

世田谷の親子100人へのヒアリングから生まれたプロダクト

—あおときさんは現在、家族で使える「OYATOCOバッグ」を販売するためのクラウドファンディングを実施しているそうですね。これも保育園と関連した活動なんですか?

櫻井:保育園をつくるにあたり「世田谷区の親子がどんなことを考えているか知りたい」というところから始まった動きですね。実際、100人の親子にヒアリングをさせてもらいました。それから「マザーズバッグ」という言葉を無くしたいという想いもあります。マザーだけっておかしくない? と思うので、OYATOCOは家族でシェアできるバッグにしました。

画像提供:あおとき

金:シェアできるよう、ヒヤリングで出た意見をもとにいろんな仕掛けを作っているので、ぜひ見ていただきたいですね!ポッケが色分けされていたり、取り外し可能なサコッシュがついていたり、かなりこだわっているんです。

URL:https://camp-fire.jp/projects/view/666236
(クラウドファンディングは7月末まで!)

 

—子育て中はもちろん、そうでなくても使えそうな機能性とデザインですね。

金:ありがとうございます! 働くママが増えているので、ビジネスシーンでも使えることを意識しました。私は元々アパレルでセレクトをやってたんですけど、アパレル関係のママにも評判がいいんですよ!

ホワイトなデザイン会社を目指して

—最後に、それぞれ「今後仕掛けていきたい」と思うことを教えてください。

金:私は、下北沢で「なにかやりたい」ってくすぶっている人たちのサポートがしたいですね。何かやろうとしている人を応援して、もっと輝ける存在にしたい!それから、個人的なことですけど7月に鎌倉に引っ越すんですよ。鎌倉と下北ってちょっと似てて、個人店が多かったり、お店同士が繋がってたりするんです。櫻井さんがよく「下北沢は一番都会の田舎」って表現するんですけど、鎌倉にもそんな感じがあるんですよね。そこにすごく惹かれています。

櫻井:僕は、下北沢のどこかを青と黄色に染め上げたいですね。会社名の「あおとき」は、「青と黄」って意味なので。

金:ミカン下北とかでやれたら良いなぁ。みんな青と黄色のドリンクを持ってるとか?

 

―澤島さんはどうですか?

澤島:僕は、最近ちまたで話題のNFT(Non-Fungible Token)に興味があって。アートを販売できるように、今準備を進めてます。日本ではまだNFTクリエイターも少ないので、好奇心半分、今後に活かせる材料になればいいなと。

櫻井:メタバースの保育園をつくるとか?

澤島:園庭に、突然崖が現れたりしたら面白そうですね!リアルだと場所は有限ですけど、視覚は無限大。

櫻井:メタバース上で、いろんな体験ができたら良いな。澤島は、よく仕事の合間に作ってるよね(笑)。うちは1日の稼働のうち40分は好きなことに使っていいんですよ。そこで新しい趣味を見つけるなりしてほしいなと。

澤島:櫻井さんが作曲してるときとか「僕も今やっちゃおう」と作業してます(笑)。

櫻井:あおときは、ホワイトなデザイン会社を目指してます。デザイン会社ってブラックな環境が当たり前で、僕らも以前はそういうところで働いてたんですよ。限られた時間の中でも、いかにブラックに働いている人より良いものを作るか。それが今の課題だと思っています。

—保育園を運営している会社、絶対ホワイトが良いですよね!

櫻井:そうそう。保育園なのに深夜でも明かりついてるな、みたいなのは……

金:絶対に避けたい(笑)!

Information

取材・文:堀越愛 撮影:岡村大輔
株式会社あおとき
株式会社あおとき
下北沢に根差したグラフィックデザイン会社。様々なデザイン案件を手掛けるほか、下北沢の情報を発信するInstagram(https://www.instagram.com/aotoki.inc/)を運営。デザインの知見、そして下北沢の人や街とのかかわりを活かし「下北沢にクリエイターがあつまる保育園をつくる」ことを目標に活動している。
Web
https://www.aotoki.jp/
Instagram
@aotoki.inc
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