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代田児童館の子どもたちが挑んだ「夢プロジェクト」。 壮大なエンタメアトラクション、完成までの道。

世田谷区に現在25館が存在する児童館では、子どもの夢を実現することをテーマに、ものづくりや研究など子どもたちの挑戦を応援する「世田谷区子ども夢プロジェクト(以下て夢プロ)」が開催されている。年度ごとに数館が参加するのだが、2023年度の実施館だった代田児童館は、子どもたちのアイデアで、演劇あり、歌あり、謎解きありの参加型のエンタメアトラクションを企画した。この壮大な企画は、あくまで子ども主体のものではあるが、劇団エリィジャパンの石垣エリィさんをはじめとするプロのサポートが子どもたちの体験をより色鮮やかにした。また、地域の人々や保護者のサポートも受けながら街ぐるみで作り上げた企画であったことも特筆したい。今回は、このプロジェクトを支えた代田児童館職員の吉本真帆さんと小山亜理沙さん、青年サポーターの岡野世支雄さん、中高生サポーターの田口智悠さんと村松位紡さんと樋口朋花さんに「夢プロ」に挑戦した子どもたちとの日々について話を訊いた。

ひとつに絞るのでなく、ひとつの中にすべてを入れた

まずは、「夢プロ」について教えていただけますでしょうか。

吉本:「夢プロ」は、世田谷区の児童館全体として19年くらい実施されています。小学生の子どもたちが、実現したい夢に向かって活動することが重要なテーマです。年度によって参加する児童館が数館決定するので、参加館になったらそれぞれの児童館で企画を立てていきます。特に企画内容に縛りはなく、研究発表でもステージを作り上げるでもなんでもOK。今回も、お化け屋敷を作った館もありましたし、電車に関する研究をした館もありましたし、内容はいろいろなんです。
毎回、実施館になることは年度が切り替わる3月くらいに決まっているので、「今年夢プロがあるよ」というのは子どもたちには伝えはじめますが、本格的な参加メンバーを募集するのは年度始まりの4月から。最初に集まったメンバーで、どんなことをやりたいかを話し合って、職員もサポート的に入って実際にできるのかというところも検討しながら企画を一旦まとめて、5月くらいにメンバーを追加募集しました。

今回のプロジェクトの統括役だった職員の吉本さん

今年度の企画は、ミュージカルでもありアトラクションでもあり?なかなか壮大な感じでしたよね?

小山:実はあそこに行き着くまでには、紆余曲折ありまして(笑)。

吉本:最初に出たアイデアは、児童館を丸ごとホテルにする、というものだったんです。でも、メンバーの中に「泊まるのは嫌だな……」という子がいたので、再び話し合いを重ねました。

小山:今回のメンバーは、やりたいことがはっきりしている個性的な子が多かったので、アイデアをひとつに絞るのではなく、やりたいことを盛り込んでみよう!ということになりました。ただ、アイデアを出す上で大切にしたのは、一人ではなくみんなでやりたいこと、という点。たくさんお菓子を食べるみたいなアイデアも出るのですが、それって一人でもできそうだし簡単にできそうだよね? と問いかけて。みんなで一生懸命やって叶えられるものにしない? と声をかけながら企画を練り上げて行きました。

吉本:子どもたちのアイデアとして残ったのは、ホテル、絵本、ショー、謎解きだったので、「代田ホテル」を舞台にした絵本をつくって、それを謎解き要素もある演劇にしよう! ということになりました。そして、最終的には児童館の中をホテルに見立てて、来場者が参加形で楽しめるアトラクションに仕上げたんです。

いろいろなアイデアをひとつにまとめるのは、調整が大変ですよね。

小山:まさに!そこがミソではあるんですけど、おもしろかったところでもあり、大変だったところでもあり(笑)。結果的に、手に負えないくらいのボリュームに広がってしまいました。

主にステージづくりをサポートした職員の小山さん

大人のサポートで、子どもたちの経験をより鮮やかに

–絵本からショー、そしてリアルな体験へと壮大なエンタメ企画ですよね。絵本の物語は、子どもたちが作ったのですか?

小山:はい、メンバーの中で絵本を作りたいと手を挙げてくれた子がいて、その子がメインとなって作っています。いろいろな子を登場させたいという想いもあったようで、途中でひとり金髪の登場人物をプラスするなど、いろいろ考えながら作ってくれたようです。演劇はこの絵本をベースにしていますが、脚本に仕上げる作業は職員がサポートとして入りました。夢プロは、あくまで子どもたちが主体となってやっていく活動ではあるのですが、大人たちのサポートもひとつのポイントなんです。

イラストに一番苦労したという絵本の1ページ

吉本:「夢プロ」は、いかにして子どもたちにいろいろな経験をしてもらえるか、というのが職員の裏テーマでもあります。より濃い体験をしてもらうために、今回はいろいろな分野のプロの力もお借りすることにしました。子どもたちに、頑張って取り組めば、大人たちはこれだけ協力してくれるんだよ、ということも知って欲しくて。謎解きではリアル脱出ゲームのSCRAPさんに、楽曲制作はもともと児童館利用者だった岡野世支雄(よしお)さんに、そして、演出では劇団「エリィジャパン」の石垣エリィさんにお力添えいただきました。また子どもたちのヘアメイクと衣装は、普段から児童館に関わって下さっている地域の方々、保護者の皆さまにたくさんご協力いただきました。

–今回、石垣エリィさんにオファーしたのには、なにかきっかけがあったのでしょうか?

吉本:代田児童館から歩いてすぐの下北沢エリアは、昔から演劇が盛んな街。こういう土地だからこそ、地元の方にお願いしたいという気持ちがあったんです。「東京都実験区下北沢」の記事でエリィさんの存在を知って、取材記事やホームページでミカン下北のお店でお芝居する企画をされていたり、単なるお芝居とは少しちがう変わった企画をしていたりすることに興味を持って。今回の子どもたちの企画もいろいろな要素がミックスしているものだったので、エリィさんに力になっていただけたらいいなと思ったんです。

小山:エリィさんには、演技や見せ方についてのアドバイスもいただきましたし、ダンスの振り付けもしていただきました。私たちは演劇については素人なので、エリィさんが入ってくださることで、子どもたちにも本物を体験してもらえるいい機会になったと思います。

画像提供:夢プロジェクト

–2023年12月には、ミカン下北の大階段(通称ダンダン)を使ってのプレ公演を、2024年1月には本公演を同施設で行いました。これらの公演も、エリィさんのアイデアだったとか?

小山:最初にお話しさせていただいた時に、「児童館って、こんなにおもしろいことをしているのに、みんな全然知らないじゃないですか?」って言っていただいて。まさに、この〝知る人ぞ知る〟施設になってしまっていることが、私たちの課題でもあったので、エリィさんから、「多くの人に知ってもらうきっかけにもなると思うので、ミカン下北で公演をするはどうですか?」とご提案いただいたのは、本当に嬉しかったです。

–確かに、ダンダン(大階段)を客席にして、通りでパファーマンスをしていれば、通りがかりの人の目にも留まりますよね。公演の仕上がりだけでなく、児童館の課題も解決しようとしてくださるのは、さすがですね!

画像提供:夢プロジェクト

中高生や卒業生も小学生を支え、同時に刺激をもらう

–ミカン下北の公演では、最後をしめくくるテーマ曲を子どもたちが歌っているのに、なんだかグッときてしまったのですが、楽曲制作をされた岡野さんはもともと児童館を利用されていたんですね!

岡野:はい、そうなんです。2年ほど前、音楽の専門学校に通っていた頃に一度、代田児童館のマスコットキャラクター、ダイバードのテーマ曲を作らせていただいたことがあったので、今回は2回目のオファーでした。ミュージカルの曲と聞いていたので、ディズニーっぽい感じかなと思って『美女と野獣』の曲を聴きまくってイメージを膨らませていたのですが、子どもたちに会ってどんな曲がいいか要望を聞いてみたら、イメージが全然違ってエレクトリックな感じで(笑)。

吉本:大人のイメージと子どものイメージが、全然違っていたんです(笑)。

岡野:けっこう悩んだのですが、物語の流れや子どもたちのキャラクターを考慮しながらいくつか作ってお送りして、「光れ 代田ホテル 〜魔法のトモダチ〜」という曲に仕上がりました。レコーディングも大変だったのですが、みんな一生懸命に練習してくれて。本番は僕も感動しました。

ミュージカルのテーマ曲を制作した岡野さん(写真右)

小山:やっと曲が完成したのが、ミカン下北の公演の1週間前。本番までの数日の間でレコーディングをして、というバタバタな感じだったので、本番までに歌詞を覚えられるかなどうかな、無理だよね、くらいに思っていたんです。それが、リハーサルでちょっとしたトラブルがあって、レコーディング音源が流れなかった時に、子どもたちがアカペラでちゃんと歌い上げたんですよ。これには驚きました。

岡野:あれはすごかったですね。

吉本:ダイバードの曲もそうですが、子どもたちは岡野さんの曲が大好きなんです。館内でもよく流していたので、短期間でもたくさん歌って練習していたのだと思います。

–児童館卒業生が、大人になってもサポート役として繋がっているのはいいですね。

吉本:そうですね!夢プロの対象は小学生ですが、児童館を利用している中高生もサポート役として参加してくれています。中学生の田口くんと高校生の村松くんも、裏方でこのプロジェクトを支えてくれて、とっても心強かったです。

村松:代田児童館には、小学生も含めて楽しめることを企画するDJT(代田児童館ティーンズ)という中高生のグループがあって、そのメンバーは児童館にいることが多いので声がかかりやすくて。職員の方から「この日時間ある?」って聞かれて、指定の場所に行ったら夢プロのミーティングで、いつの間にかメンバーに(笑)。

–うまいですねー!(笑)

吉本:村松くんは、夢プロ経験者でもあるので!

村松:1回だけですけどね。バンドのライブをやった年に、前座として漫才をやったんです。僕も小学生の時に、中高生にいろいろなことを教えてもらった記憶がありますが、気づいたら自分が教える側になっていて。でも、そういう関わり方も楽しいものですね。今回も、みんなの成長を側で見ながら、夢プロっていいなぁって思っていました。

サポート役として夢プロに参加した中学生の田口さん(写真左)と高校生の村松さん(写真中)

田口:僕は、小学4年から6年がちょうどコロナ禍で、やりたいことができなかったんです。今回はサポートという立場でしたが、それでも「夢プロ」に関わることでいろいろな体験ができたのはよかったです。今回は、苦手なダンスも挑戦してみようと思って子どもたちと一緒に頑張って参加したんですけど、一番下手だったかも(笑)。本番は感動させてもらって、子どもたちってすごいなぁって思いましたし、小学生と接することで自分も成長できた気がします。

吉本:小学生メンバーは、中高生サポーターのみんなを本当に慕っているんです。

やりたいこともやり方も、子どもの自主性を第一に

–子どもの夢を実現するために、子どもたちへの接し方などで心掛けていらしたことはありますか?

吉本:子どもたちの意見をできるだけ尊重できるように、と考えていましたし、活動のやり方もできるだけやりたいようにやらせてあげたいと思っていました。通常なら、何時から練習するみたいに決めてやると思いますが、子どもたちにも気分があるので、ボール遊びやりたい!みたいなムードになったら、「じゃあ先に遊んできたら?気分が乗ったら一緒にやろう!」みたいにして。

–自主性を重んじて、信じて待つというのは、なかなか簡単なことではないですよね。着地するか不安になってしまいそうですが(笑)。

小山:常にドキドキではありましたよ(笑)。ミカン公演の前は特に。大丈夫かなと思うことは常だったのですが、最終的にすごいものを見せてくれるので、子どもの持っている力って本当にすごいなぁって思って。ゲームをしていて話を聞いてなさそうな子でも、本番はちゃんとやるべきことをちゃんとやってくれて。子どもたちなりに心の準備はしてくれていたのでしょうし、本番では1年間の成長を感じました。

–参加した子どもたちにも、夢プロの感想をお聞きしてみましょうか!参加してみて、どうでしたか?

・絵本を担当しました。謎解きを入れることが決まっていたり、役者の人数が決まっていたり、いろいろな条件があったので物語を作るのが思ったよりも難しかったです。

・小道具で料理をお皿に描くのが細かくて難しかったけど、楽しかった!

・役者がやりたかったわけじゃないけど、やってみたら楽しくなってきた。

・夢プロに参加したら、人とたくさん話せるようになった。その経験が、将来社会人になった時にも役に立つと思います。

・友人に誘ってもらって夏くらいからの参加だったけど、みんなやさしくしてくれて、ちがう学校の友達もできて楽しかったです。

・出演者のヘアメイクを担当しました。限られた時間で何人ものメイクをしなくちゃいけなくて大変だったけど楽しかったです。

・エリィ先生が、恥ずかしがらずにちゃんと自分を表現しているのがかっこいいなと思いました。そういう大人になりたいです。

・中高生サポーターのみなさんの動きがすごいなぁと思いました。次の夢プロの時は中学生だから小学生を支えるサポーターとして参加したいです。

画像提供:夢プロジェクト

–みんな、それぞれに大変だったことも楽しい経験として受けとめていて、すごいですね!今年度の夢プロが終わったばかりですが、次回に向けて職員としての想いなどあればお願いします!

小山:どんな無理難題が待っているのだろうっていうドキドキもありつつ、次回もとても楽しみです!

吉本:今回参加してくれた子どもの中には、次回は中学生になっている子もいます。そういう子が、今度は中高生サポーターとしてプロジェクトを引っ張っていく立場になってくれたら嬉しいなと思っています。職員は年度ごとに異動があり、ずっと関わっていくことが出来ないので、今の中高生サポーター・青年サポーターの皆さんも含め、地域の方々に児童館の活動・子どもたちの活動に末長く関わって、応援していってくれたらと願っています!

後日、石垣エリィさんにも、今回のプロジェクトを振り返ってコメントをいただきました。

–石垣エリィさんコメント−

最初にご連絡をいただいた時に、お芝居やダンスの楽しさだけでなく、厳しさも伝えてほしいとお聞きして、これはおもしそう!とお受けすることにしました。
お稽古はいろいろ大変だったのですが、彼らなりにそれぞれ葛藤やこうしたいという強い要望があることもわかってきて、それはひとつの作品にそれだけの想いがあったからこそだなぁと。私は普段、ひとつの作品を円滑に形にしていくことを優先してしまいがちですが、子どもたちの真っ直ぐな取り組み方に触れて、作品に対する自分の気持ちを疎かにしていたのではないか、私が作品に対してどう思うかというところも大切にするべきなのではないか、と原点に立ち返るような気づきもいただきました。
子どもたちは、本番前日までセリフに詰まったりスムーズにできないところがたくさんあったりしたのに、本番はみんなセリフも動きも完璧で、それどころか見たこともない演技を足してくる子がいたりして! ミカン下北の公演のリハーサルでも、自主的に手拍子で歌の練習をはじめるというシーンを目の当たりにして、めちゃくちゃ感動しました。子どもたちの可能性って本当にすごいですね。
演劇が社会の一部になれたら、という想いでお芝居に関わり続けています。今回はそういう意味でも、演劇が子どもの自主性を育むということを実感ができて、とても嬉しい機会でした。

Information

取材・文:内海織加 撮影:岡村大輔
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世田谷区立代田児童館
新代田駅から徒歩1分のところにある、0歳から18歳までの地域の子どもたちやマタニティの方々が自由に利用することができる遊び場。子どもたちの感性や自主性を伸ばすさまざまな活動やイベントを通じて、学校や学年を超えた子どもたちの交流も行われる。

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