3月末、ミカン下北高架下の飲食エリアに突如レッドカ―ペットが出現。普段何気なく歩いている通路を舞台に、「ファッション×社会問題」をテーマに活動する学生団体「Innovation Around 20(通称:あらとぅ)」によるファッションショー「Re:mix street produced by あらとぅ」が行われた。
今回のファッションショーは、企画・演出・衣装作成・モデル・ヘアメイク・DJ・カメラマンに至るまですべて学生の手でつくりあげたまさに実験的な企画。また、衣装はミカン下北内で回収された古着などを学生たちが自らリメイクして作り上げているほか、下北沢に拠点を構えるリメイク古着店「SHINKIRO」からも提供を受けるなど、下北沢との接続点も豊富だ。
本プロジェクトがスタートすることになったきかっけは、ミカン下北内のコワーキングスペース「SYCL by KEIO」 実験応援プログラム『studioYET』での出会い。まさに下北沢での実験の結晶である本イベント。
プロデュースした学生メンバーたちはどのような想いでこの実験に臨んだのだろうか。ファッションショーの開催背景や当日の様子もレポ ートする。

企画から運営まですべて学生のみでプロジェクトチームを結成し、実行された。
あらとぅは大量生産の服を早いサイクルで買っては捨てるファストファッションではなく、1着1着を大切にするスローファッションの考え方や、アパレル産業の裏にある労働問題など、さまざまな角度からファッションについて考える活動を行っている。
発足は2022年。青山学院大学を中心にファッションに関心のある学生たちが集まって立ち上げられた。
あらとぅに所属し、ファッションショーをメインプロデュースしたおふたりに、あらとぅへ入ったきっかけを聞いてみた。

運営の中心メンバーのお二人。学年は違えど、それぞれの得意分野へリスペクトを向け合う。
(左:らんさん/右:はるとさん)
らんさん「前の代表が熱意を持って、積極的に活動している姿に惹かれて私も参加することにしました。正直に言うと、最初はファッションにも社会問題にもそこまで関心は強くなかったのですが、活動していくうちにもっと知りたいと思うようになってきました」
はるとさん「僕は高校生の頃から古着が好きで、古着関連のサークルだと思って見に行ったのがあらとぅでした。ただただファッションが好きで入ったのですが、社会問題、環境問題についても視野を広げながら活動できるのはいいなと思います」
現在は、各地で古着回収を行い、回収した古着をリメイクしたり、スローファッションを訴求するイベントを実施するなどをメインに行っている。
下北で手放された古着を、再び下北で蘇らせる。リメイク古着のファッションショー
学生団体あらとぅにとって、今回のファッションショーは過去一番の規模のものだったという。ミカン下北でイベントを開催するに至った背景に、こんな出来事があった。
らんさん「SYCL by KEIO(ミカン下北内のコワーキングスペース)で開催されていたイベントを観覧しにきた時に、たまたまミカン下北実験パートナーの石塚さんとお話しすることになって。私たちの古着を活用して社会問題について考えている活動についてお話ししたら、何か一緒にやりましょうって言ってくださったんです。
あらとぅはだいたい3ヶ月に1度のペースでイベントをしているのですが、ちょうど次に音楽とファッションを組み合わせたイベントをしたいと考えていて。下北沢という街にもぴったりのテーマだと思い、一緒にショーをやらせていただくことになりました」
準備が始まったのは、2024年12月末のこと。約3か月間で、企画・衣装のリメイク・モデルキャスティング・演出検討・当日運営メンバー募集などを全て進めた。
衣装は、(株)FASHION Xがミカン下北内に設置する古着回収BOXなどから選定し学生たちが自らリメイクを施したほか、ミカン下北にて長期にわたるPOP-UPを開催するリメイク古着店「SHINKIRO」へも直接打診をし、衣装提供を受けた。普段から古着回収イベントも行うあらとぅの2人は、下北沢で集まった古着を見てこう語る。

ミカン下北内古着回収BOX(株式会社FASHION X)

古着店「SHINKIRO」。3周年イベント期間中にもミカン下北にてPOP-UPを開催。
はるとさん「バラエティ豊かな古着が入っていましたが、どれも下北っぽさを感じるものばかりでした。結構使い込まれているけれど、よく見ると有名ブランドのものもあったりして、掘り出し物を見つけるのが楽しかったです」
らんさん「普段は古着回収をすると40〜50代の方が服を持ってきてくださることが多いのですが、今回集まった古着を見ると、若い方が着そうな服もたくさんあったんですよね。実際、下北沢にミーティングに来るたびに、回収ポストに服を入れている若者もたくさん見ました」
集まった古着は数百着にものぼる。大きなシートの上に古着を広げ、衣装のイメージを膨らませながらピンときたアイテムをピックアップしていく。時には2時間近く衣装選びに費やす日もあるほど、熱心にアイテムを探す姿が印象的だった 。
選ばれた古着は、ROCK、雅楽、KPOP、HIPHOPの4ジャンルの音楽のイメージに合わせてリメイクされた。特に“雅楽”という珍しいジャンルは、「SHINKIRO」にて多く取り扱われている着物からインスピレーションを受けて取り入れたそう。
はるとさん「ファッションは音楽との結びつきが強いと思っていて、ジャンルごとにメリハリをつけていろいろな表情を魅せられたらと考えました。そんななかで、SHINKIROさんにお邪魔した時に、着物があるのを見て、和風な衣装もいいかも! と気づきました」
らんさん「SHINKIROさんは、衣装提供だけではなく告知など、たくさんご協力いただきました。何か一緒にやりたいと思っていたと喜んでくださって、こちらとしても嬉しかったです」
ファッションショーには、計15名のモデルが出演した。4ジャンルの音楽に合わせて個性の際立ったリメイク衣装を身にまとい、堂々とランウェイを歩く。
この日のために、ミカン下北の高架下の飲食エリアの通路はいつもと違った演出に。ショーに合わせて特別に照明やレッドカーペットが設置され、ショーを盛り上げる。近隣の飲食店舗も照明を落としたりテラス席を開放するなどイベントに積極的に協力してくれた。
会場となったミカン下北では、階段から通路まで観客で埋め尽くされた。ランウェイ横の飲食店内から、ショーの様子を見つめるお客さんの姿も見られた。
学生メンバーの1歩目を作る実験をミカン下北で
ショーに携わった学生はモデルや運営スタッフを含め、今回が初挑戦となった者も多い。服飾学生など経験者だけではなく、広くメンバーを募ったのにはこんな思いがある。
はるとさん「ミカン下北は実験をコンセプトにした施設だと聞いて、僕らも実験をしたいと思ったんです。古着のリメイクをしてみたいという若者や、モデルをやってみたいという若者が始まりを掴むきっかけができたらいいなと。だから、リメイクが難しすぎない古着を探したり、ミシンもこちらで用意したりと、一緒に活動してくれる人たちが1歩目を踏み出しやすくすることも意識しました」
これまで、ミカン下北ではさまざまな実験が行われてきたが、それらの積み重ねがさらに新たな実験を生み出したことがわかる。
学生中心で行われた今回のショー。観客や運営メンバーの明るい表情を見るに、大成功と言って良いだろう。
らんさん「私たちにとっては、大きな規模のイベントだったのですが、関わってくださる方々がみなさん温かくて感動しました。運営メンバーも、集まってくださったお客さんもみなさん優しくて、これが下北沢の良さなのかなと感じます」
下北沢は、若者が多く集まる街でもある。今回のショーのように若者中心のフレッシュな実験もあたたかく応援してもらえる大人が多いこともこのまちの強みなのではないだろうか。最後に、あらとぅの2人が今後、下北沢を舞台にやってみたいことを聞いてみた。
らんさん「今回はFASHION XさんとSHINKIROさんにご協力いただきましたが、他の古着屋さんも巻き込んでイベントや取り組みができたらいいなと思っています。古着屋でバイトしている学生さんや、古着屋によく行く若者も多いと思うのでそういった人たちとも繋がって一緒に活動していけたら嬉しいです」
はるとさん「僕は、古着の他に音楽も好きなので、下北沢は大好きな街のひとつです。なかなかこういった街はないと思うので、あらとぅの活動もうまく組み合わせながら、街の文化を残すような活動に携われたらいいなと思います」
4年目を迎えるミカン下北及び、下北沢という街は、今後もさまざまな人の「やってみたい」から生まれる実験を積み重ねていく場所となるだろう。