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クラブとライブハウスの交錯地点──音楽の街・下北沢の新名所、SPREADが考える“共存”

下北沢と言えば数多くのロックバンドとライブハウスがひしめく音楽の街というイメージが強いように思う。しかし今、ライブハウスではなく一つのクラブが新たなカルチャーの源泉となっている。その名はSPREAD。

DJの流すダンスミュージック、ラッパーやシンガーのパフォーマンスを楽しむ人が訪れるだけでなく、ふだんはライブハウスに通うオーディエンスなど、多種多様な人々が日常的に出入りし、垣根を超えて混ざり合う。それによって生まれるエネルギーの魅力について、代表の星野秀彰さんにインタビュー。

下北沢に根を張り20年以上に渡って音楽事業に関わってきた星野さんには、この街の過去~現在、そして未来がどう映っているのか。クラブカルチャー、ライブハウスカルチャーと、昔ながらのローカルカルチャーの共存に目を向けることで見えてきたこととは。

昔からライブハウスとクラブの機能を併せ持つ場所をつくりたかった

―星野さんが音楽業界で働き始めた頃のことから教えていただけますか?

2000年代の初めに、渋谷の並木橋にあったSHIFTY(※1)というクラブでアルバイトとして働いたことが最初ですね。

※1:渋谷並木橋に位置した、ヒップホップやテクノなどのDJイベントが行われていたクラブバー。2020年4月に閉店。

―そこから下北沢のライブハウス、BASEMENTBAR / THREEに移ったんですよね?

はい。SHIFTY、BASEMENTBAR(※2)と隣接するTHREE(※3)は同じTOOS Corporationの系列で、当時はBASEMENTBARもクラブだったんですよ。今みたいにライブステージもなかった。THREEもWEDGEという店名のクラブでした。その後、BASEMENTBARがクラブからライブハウスに変わることが決まったタイミングで、バンド音楽も好きだったので異動の希望を出したら運良く通りました。

※2:1995年に下北沢でオープンしたライブハウス。
※3:下北沢club WEDGEから店名を変え、2009年にオープンしたライブハウス/クラブ。
住所:東京都世田谷区代沢5-18-1カラバッシュビルB1F

―もともとクラブカルチャーもバンドカルチャーも好きだったのですか?

クラブカルチャーやクラブでかかる音楽に関してはSHIFTYで働き出したことがきっかけですね。バンド音楽はそれより前、10代の頃から聴いてました。

―下北沢に移ってみてどうでしたか?

最初はSHIFTYで働いていた経験もあったので、ライブハウスの仕事をBASEMENTBARで覚えながらWEDGEでも働いていました。BASEMENTBARが終わったら深夜にWEDGEで朝まで掛け持ち、シフトに入っていなくても遊ぶ。クラブとライブハウスを往来する毎日で楽しかったですね。

―当時印象的だったイベント/パーティは?

絞るのはなかなか難しいんですけど、今SPREADでやっていることに近い感覚という意味で言うと、ブライアン・バートンルイスさんがスペースシャワーTVでMCをやっていた頃に、番組の企画で使ってくれたこと。ブライアンさんはクラブカルチャーとバンドカルチャーの両方に通じていて、BASEMENTBARにはライブアクト、WEDGEにはDJをブッキングした二つの箱を横断できるパーティをつくられていて、とても刺激的でしたね。

―そして2009年にWEDGEもTHREEと店名を変えてライブハウスに。その後の星野さんのキャリアの変遷はどうなっていったのですか?

THREEの店長になって、当初はライブハウス一色ではなく、ライブハウスとクラブの機能を併せ持つ場所にしたかったんですけど、うまくいかなかったんですよね。繋がりの濃かったDJやお客さん以外、時々使ってくれるような人たちは「あそこライブハウスになっちゃったんだ」みたいな感じで、徐々に足が遠のいてしまって。ライブハウスとクラブって楽しみ方の異なる部分も大きいので、なかなか難しかったです。

―ライブハウスは一つひとつのアクトを観るところで、クラブはDJがシームレスに入れ替わっていくなかで、飲んだり話したりしながら一晩を楽しむ場所。その間にはグラデーションはありますけど、簡単に言えばそういうことですよね?

そうですね。それでライブハウス一本でやっていく流れになったTHREEの店長を経て、TOOS Corporationの手掛ける店の統括マネージャーとして働くことになり、SPREADには2020年の立ち上げから携わりました。そして2023年の10月に箱ごと買い取って独立、11月1日から新たなSPREADがスタート、という流れですね。

今までにないエネルギーが生まれている

―SPREADはさきほど星野さんが「うまくいかなかった」とおっしゃった、クラブカルチャーとライブハウスのカルチャーがクロスオーバーするベニュー。2020年のオープン当初からそういう狙いはあったのですか?

初めて物件を見に行った時に、入り口の階段からしてクラブっぽいなと。フロアもライブ用のステージがなくフラット、天井が高くて壁はコンクリート打ちっぱなし。空間としての自由度が高かったので、クラブとして営業していくことは決まったんですけど、細かいことは探り探りでしたね。

―オープン当初はフロアの奥に一段上がった常設のDJブースがありましたよね。

当初は話し合いの結果、常にそこでDJがプレイしている箱としてスタートさせたんですけど、もっと空間の特性を活かして、いろんなことができる場所にしようと撤去して、DJブースは移動式にしました。しばらくして、ライブがしたいという依頼にも応えられるように、機材も持つようになり現在に至ります。

―こうしてお客さんや演者のいない状態で箱全体を眺めてみても、さまざまな使い方ができそうで、すごくいいですね。私の記憶だと、壁全面にリキッドライト(※4)を施したライブがすごく印象的でした。照明もすごく魅力的です。

壁が打ちっぱなしで大きいので何かを飾ったり、映像をしっかり投影したり、オールフラットなフロアの使い方もそうですが、立ち上げから関わってくれているDJのYELLOWUHURUと一緒に試行錯誤してきました。照明については羊文学などのステージ照明も手掛けている佐藤円も入ってくれて、DJにもライブにも対応できる音響に関してもTHREE店長時代からPAで一緒に働いてたスタッフにゼロからサウンドメイクしてもらったんです。

3人は当時からライブハウスにもクラブにも文脈があったので、やはりSPREADの初期から今現在を形成している由縁だと思います。おかげで、小箱ながらも自由に使ってもらえる、いろんな実験のできる空間になりました。

※4:1960年代後半のアメリカ西海岸で派生したサイケデリックカルチャーを背景に生まれた舞台照明技術のひとつ。

2024年2月27日に開催された<葉脈>(出演:中村達也/ヤマジカズヒデ/中山晃子)。アーティスト・中山晃子が参加し幻想的な空間演出も行われた。

―そして現在、DJ単体のパーティだけでなく、バンドやビートメイカー、シンガーらのフロアライブ×DJというスタイルのバーティが定着しました。もちろん単に形式の話ではなく、クラブとライブハウス、音楽ジャンルといった既存の概念に捉われることのないイベンターやバンド、DJによって、すごくフィジカルで新しいミックスカルチャーが生まれ、お客さんも増えてきている。幡ヶ谷のForestlimtや、ステージはありますが新宿SPACE、同じ下北沢のLIVE HAUSなども含め、小さな箱から起こっている新たな風については、どう感じていますか?

フロアライブについては、それによってよりフィジカルなエネルギーが生まれているものも、「なんでステージあるのにわざわざ?」と思っちゃうものも含めて、昔からありましたし、例えばロックバンドとクラブDJという組み合わせ自体もそうですよね。

―はい。私自身もよく遊びに行ってました。

そのなかでおっしゃったように、今までにないエネルギーが生まれていることは確かだと思います。それを一つのカルチャーとして僕がレペゼンするようなかたちで語るっていうのはちょっと違う気がするので、SPREADの代表という立場から自分なりに考えると、まずは考え方や趣味嗜好が柔軟な人たちが増えてきているように思います。

そこにはインターネットでさまざまなカルチャーを横断、吸収することが当たり前でベニューの営業形態や音楽ジャンルにバイアスがない人、保守的な棲み分けに疑問を持っている人など、いろんな人の感覚があると思います。そんな人たちと、もともとライブハウスでもクラブでも働いていた僕の感覚が、いい感じでマッチしているのかもしれません。自社で抱えているブッキング担当も、ここを使いたいと言ってくれるイベンターさんも、興味深い人たちがたくさん集まってきてくれて、ありがたいですね。

 

2023年12月31日に開催された<<SPREAD NYE PARTY 2023-2024>。SPREADを象徴するような、DJもバンドなど多様なジャンルが共存するオルタナティブなパーティイベント。 design by Mai Yamakoshi

都心にはない「地域との共存」の面白さ

―SPREADは現在、防音整備で深夜営業を止めています。そのことについて聞いてもいいですか?

はい。防音はクラブやライブハウスをやっていくにあたって付き合っていかなければならない問題ですね。SPREADも深夜帯の営業については、大家さんと協議を重ねながらいろいろと調整していたのですが、ここを買い取ることが決まった時に自分から「24時以降のクラブ営業を止めます」と言ったんです。大家さんもギリギリまでこらえていてくれたことは伝わっていましたし、それなら一度、深夜営業を止めるべきなんじゃないかと。今はたまに大きな音を出さないバー営業をやりつつ、クラブとしての深夜営業を復活させるために、防音工事の計画を練っています。

―下北沢は数多くの店が所狭しと並んでいますし、そこに住む人々も多いので難しいですよね。

でも、そこが好きなんですよね。僕は下北沢ではないんですけど東京生まれ東京育ちで、東京のローカル感みたいなものに愛着があるんです。人情とか街の行事とか。SPREADは下北沢南口商店街の組合にも入っていて、音楽の人間だけだとわからない情報も入ってくる。昔から下北沢に住む人や、さまざまな職種の人の話を聞いて、地域と共存しながら発信していくカルチャー。そこには都心だとできない面白さがあると思います。

外からの人が集まる街でありながらトレンドに左右されないローカルな色も強い。インディペンデントな試みが発信しやすい街だと思います。

reloadやミカン下北などの施設に象徴されるように、今の下北沢は再開発が進んでいます。そして、僕がこの土地で働き出した二十数年のなかでも最も人が多くて活気づいている。海外からの来訪者も飛躍的に増えました。そういった街の間口が広がる結果に繋がった新しい流れと、下北沢が元来持っているローカルな魅力がどう重なっていくのか。いい感じに転がってほしいですし、音楽畑の自分たちは何ができるのか、いろいろと考えています。

―これからやってみたいことは?

SPREADは自社企画も場所貸しも含めて、ストイックにエッジのあるパーティ/イベントをやり続けてきました。そこは引き続き継続していきたいです。街は盛り上がっている。でも、その人たちが夜中まで残ってくれるわけじゃないし、オルタナティブなカルチャーにまで目を向けてくれる人たちも少ない。だからこそ自分たちのやっていることで、惹きつけていきたいですね。同じ南口商店街のLIVEUAUSやILLASと協力した仕掛けもやっていきたい。

その一方で、もう少し緩い飲み屋っぽさ、会話メインで楽しくやれるような、誰かの誕生日会でも、そういう意味合いでのローカルな営業も増やしてもいいのかなと思っています。

あと将来的には、SPREADでやっているようなことを、300人、400人規模にした場所を、同じく下北沢でやりたい。もしそれができたら、下北沢を拠点にする僕らだからこそできるイベントやパーティを目的に集まる人も増えて、さらに劇的に良い方向に変わると思うんですよ。

―考えただけでもテンションが上がります。

時間はかかるかもしれないけど、まずはその想いをこうして話すところから、いい未来に繋げていけたらと思います。

 

Information

取材・文:TAISHI IWAMI  撮影:寺内 暁
下北沢SPREAD
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