2025年2月20日、ミカン下北沢を舞台に、『ハタチの日』という新しい節目が生まれた。主催は、大学生のキャリア支援などを行う企業・Original Point株式会社(以下、Original Point)。ミカン下北内のコワーキングスペース・SYCLbyKEIOを拠点に活動している。
『ハタチの日』プロジェクトを牽引したのが、Original Pointのディレクター・藤原佳奈さん。元大学職員としての経験を活かしながらひとり一人の「自分らしい選択肢」をつくるキャリア支援に向き合っている彼女に、Original Pointの取り組みや『ハタチの日』、下北沢とのかかわりについて話を聞いた。
“自分らしく働けない社会”への違和感が、原点に
—Original Pointの事業内容を教えてください。
事業内容は、主に「大学のキャリア支援」「新卒採用の広報支援」「企業向けの人材育成」の3軸に分けられます。ミッションは「次世代の可能性を、ひらこう」。特に対象としているのは、大学生から社会人10年目くらいの若手ですね。
会社は元々、大学1~2年生向けのキャリア教育を目的に生まれたんです。代表の高橋が「就職後の研修よりも、就活する前の経験値が大事なんじゃないか。社会の選択肢に触れることが大事なんじゃないか」という想いで立ち上げた会社なので、若手に注力しています。就活だけで終わらず、未来をつくる若者のファーストキャリアにも一気通貫で伴走したいという想いもあります。

Original Pointの藤原佳奈さん。コワーキングスペース「SYCLbyKEIO」を拠点にしている
—藤原さんご自身は、なぜ大学生の支援に興味を持ったのでしょうか?
大学時代に、先に社会人になった先輩たちの影響が強いですね。大学生のときはサークルに所属していて、みんなユニークで、個性が光っていて、憧れのような存在だったんです。でも、そんな先輩たちの“その人らしさ”が就活や就職でどんどん薄れていくように見えて……。
「“大人になる”って、何かを諦めることなんだろうか?」そんな問いが、ふと浮かんだのを今でも覚えています。義務教育を経て解き放たれ、ようやく自分の色を出せるようになったはずの大学生活。その先にまた“何かに合わせていく場所”があるとしたら──。当時の私は、不安でいっぱいでした。もちろん、先輩たちの本当の気持ちは分からない。でも、あのときの私は、誰かが“自分のままで生きていい”って言ってくれる社会を望んでいたんだと思います。
—就職で疲弊していく先輩たちを見て、大学生の支援に興味を持ったんですね。
そうですね、キャリアや将来を考える就活の「構造そのもの」に抱いた違和感をどうにかしたいという思いだったと思います。就活がはじまると、突然「やりたいことを見つけよう」というムードになりますよね。でも大学1~2年生では誰もなにも教えてくれないし、やりたいことを見つけるきっかけもない。「きっかけは自分でつかまなきゃ」とか言われるけど、そもそも大人に会う機会も少ないですよね。就活前に、世の中のことを考えたくなるきっかけが無いんです。
私はたまたま、アルバイトやインターンを通じて「いい大人」に出会うことができて、大学1年生のうちからキャリアや働くことについて考えるきっかけを得られました。でも、その出会いがなければ、あの違和感をそのまま飲み込んでいたと思います。
—ご自身の就活時は、大学生の支援ができる仕事に絞っていたのでしょうか?
いえ、実はいろんな業界を受けました。「人生の転機に関わる仕事」がしたいという想いがずっとあって。そのうえで「やっぱりここだな」と思えたのが、大学やキャリアに関する領域だったんです。自分が感じた“らしさを押し込める社会”への違和感を、教育の現場から変えていけたらと思い、大学職員という選択にたどり着きました。
未来を考える成人式「ハタチの日」
—Original Pointが運営する『ハタチのトビラ』について教えてください。
『ハタチのトビラ』は、大学生にとって「自分らしいファーストキャリアと出会う場所」を目指して運営しているサービスです。大学生に、考えるきっかけを与えられたら嬉しいです。

①業界・職種・企業への先入観を壊す「10分インターン」(動画)、②曖昧な自己分析ではなく、新卒カードを無駄にしない「自己分析2.0」(ワーク)、③ファーストキャリアを考えるイベント「ハタトビのイベント」(ワークショップ)。『ハタチのトビラ』は①~③のサイクルを回す仕組みをつくり、ファーストキャリアを実現する軸づくりをサポートしている
—2月20日にミカン下北で行われた『ハタチの日』は、どういったイベントだったのでしょうか?
あえて就活色を出さず、みんなが通る「成人式」を起点にしたイベントです。成人式って、昔の仲間と過去を懐かしむ二次会メインの場という感じですよね。でも、未来を考える場であっても良いんじゃないかと思っていたんです。だからこの日は、ハタチを迎える学生たちが、これまでの自分を肯定し、これからの自分に問いを立てる。そんな一日にしたいと思いました。
ロールモデルとなる大人たち、新しい仲間たちと出会いながら、まだ形になっていない“未来の入り口”を、そっとひらく。『ハタチの日』は、そんな場所として生まれたイベントです。ずっとこういうことをやりたいと考えていて、ある時ヒトカラメディアの影山さんと雑談中に「こういうことできませんかね」と言ったら、「やりましょう!」と。

『ハタチの日』は、ハタチの未来を応援するためのイベント。下北沢駅高架下施設のミカン下北をジャックして開催された
—“就活色を出さない”という設計には、どんな意図があったのでしょうか?
「就活イベント」と聞くだけで、身構えてしまう学生って本当に多いんです。『ハタチの日』は、そうじゃない。大人が与える場ではなく、ハタチ世代と一緒につくる、“未来を祝う日”。
「これは、あなたの人生の“これから”に火を灯す場なんだよ」っていうメッセージが伝わるように、あえて就活色を出さず、節目を祝う場として設計しました。

ミカン下北の各所で趣向を凝らした催しを開催
—『ハタチの日』をつくるうえで、大事にしたことは何ですか?
学生の方々と一緒につくることを、何より大切にしました。学生団体に所属している方だけでなく、
ブルックリン(BROOKLYN ROASTING COMPANY SHIMOKITAZAWA)で働いている方、休学して駄菓子屋さんを作っている方、旅をテーマにイベントをやっている方……本当に多様な背景を持つ学生が関わってくれました。「ハタチだから」「今だから」じゃなくて、“今の自分”のままで関われる余白のある場を目指していたので、最終的には40〜50名ほどの学生が、それぞれのかたちで関わってくれて。“巻き込んだ”というより、“一緒に祝祭をつくった”という感覚が近いと思っています。

BROOKLYN ROASTING COMPANYSHIMOKITAZAWAで行われたメインイベントでは、対談や座談会のほか、未来を描く「マイテーマ」ワークも実施

「ふつう」とは異なる自分らしいキャリアを歩み、第一線で活躍する社会人ゲストが6名参加。対談や座談会を通し、集まったハタチ達に固定概念にとらわれないキャリアの可能性を提示した

ミカン下北・飲食店の前に掲出された「ハタチへの祝辞」。総勢12名の社会人から、ハタチに向けてメッセージが贈られた

3分でできるワーク「ハタチの階段」を実施。ハタチだけでなく、通りかかった高校生や大人も多数参加した
“やってみたい”にYESが返ってくる街、下北沢

『ハタチの日』実現に向け、100万円を目標にクラウドファンディングを実施。最終的に1,021,640円の支援が集まった

学生団体との対話から未来を描く「ハタチの妄想」。単なる活動紹介にとどまらず、訪れた人とのコミュニケーションが生まれる場になるよう準備された
—クラウドファンディングでは、下北沢の方々からの支援も多かったそうですね。
正直、ここまで応援してもらえるとは思っていませんでした。でも振り返ると、日々のちょっとした関わりの中で、自然と信頼やつながりが育っていたんだと思います。そういう土壌がある街なんですよね、下北沢って。
—Original Pointさんは、以前から下北沢を拠点にしていますよね。それはなぜですか?
代表がもともと下北沢が好きで、お茶屋さんに通っていたのがきっかけでした。ある日一緒に来たときにSYCLを見つけて、「ここ、いいね」と。そのまま利用を決めました。
—下北沢に拠点を置いて、良かったことはありますか?
『ハタチの日』が一番大きいですね。それ以外にも、SYCLbyKEIOの場を借りて、合同採用説明会や学生向けイベントを開催したことがあります。あと学生が社会人に1日密着する「ジョブシャドウイング」という取り組みに、SYCLbyKEIOの方が協力してくれたこともありますね。下北沢は、「なにかやりたい」と言ったときに、「いいね、それやろうよ」と返してくれる人がいる街。かっちりしていないし、ダメっていう人がいなくて、やろうと思えばなんでもできるみたいな。
“やってみたい”に、素直にYESが返ってくる。“良い大人”たちが応援してくれる空気が、私たちの活動を支えてくれていると思います。
—藤原さんが思う“良い大人”とはどういった大人でしょうか?
やりたいことを否定しない、「良いね」と言ってくれる、応援してくれる人です。下北沢にはそういう人がたくさんいると思います。否定せず、見守って、信じて託してくれる。 そんな大人の存在が、若い世代の挑戦を後押しするんだと思います。
『ハタチのトビラ』が拠点を置く下北沢が、学生たちにとって「行けば何かが始まるかもしれない」場所であったら嬉しいですね。
—藤原さんは小さなお子さんがいますよね。子育てをする街として、下北沢の印象はいかがですか?
下北沢からは少し離れますが近くに大きい公園がありますし子育てもしやすいです。それに、保育園やまわりの保護者の方々も、すごく寛容というか、おおらかな雰囲気があって。暮らしてみて感じたのは、「働きながら子育てをしている」ことが、特別じゃなく“当たり前”の空気としてあること。
親同士でも感覚の近い方が多くて、自分にとってはすごく心地いい環境だなと思います。
下北沢に生息する「良い大人」
—今後の展望について教えてください。
大学1〜2年生向けのキャリア教育を、もっと当たり前のものにしていきたいと思っています。
就活の前から、“自分で考える力”を育めるような仕掛けを、大学の中にも外にも届けていきたいです。
—下北沢での展開はいかがでしょうか?
これまで下北沢で起きたことがすごく良かったので、今後も起こし続けられる存在でありたいなと思っています。これからも、「なにかが始まる場所」として、学生の可能性に火を灯すきっかけをつくり続けたい。
数字では測れない、“問いが届く場”を、重ねていけたらと思っています。