「センキョ割」とは、選挙で投票することで賛同店のお得なサービスを受けられる仕組みのこと。学生実施委員会が中心となり、日本全国で賛同店を増やしている。実は、学生実施委員会の活動拠点は下北沢のワークプレイス「SYCL by KEIO」(現在は休会中)。2022年7月の参議院選挙に向けた活動を通じ、ほかの入居者や下北沢の街の人々と深い交流が生まれたそう。センキョ割普及という“実験”を通じ、人々の社会参加や教育、そして自身の成長を実現しようとしている彼ら。しかし決して“意識高い系”なわけではない。現役の学生である彼らは活動を通じ、何を想っているのか。コアメンバーである(写真左から)永田一樹さん・高田幸佳さん・小嶋深月さん・今池陸晃さんの4人に話を聞いた。
「社会との繋がり」を実感できる取り組み
—センキョ割学生実施委員会の活動内容を教えてください。
永田:選挙期間中の活動内容は、大きく3つに分けることができます。1つ目は、センキョ割に参加してくれる店舗さんの確保。既存の店舗さんはもちろん、新しく参加していただける店舗さんを増やしていくための営業活動をしています。2つ目は、商店街などほかの団体さんと連携した取り組み。3つ目は、メディア対応ですね。それ以外だと、大学や高校に出張授業に行ったりもします。
小嶋:簡単にひとことで言うと、「センキョ割普及活動」ですね。
—どのくらいの人数で活動しているんですか?
永田:全体の人数は把握しきれてないんですが、大体、コアメンバーの5~6人で管理してます。学生なんで大学とかバイトもあって、圧倒的に時間と人数が足りなくて……毎回ひぃひぃ言いながらやってます(笑)。
今池:僕は、去年の衆院選の時期はサークルが忙しくて全然参加してませんでした。けっこうゆるいですよ(笑)。でもガチガチじゃないからこそ、続けられてるってところはありますね。
永田:毎週会議があるとかでも無いし、「この日だけ参加する」とかもありです。そうやって活動するうちに勉強になることもあるし、ゆるくやれるのが良いところです。
—政治や選挙の知識がなくても、気軽に参加して良い取り組みなんですね。センキョ割の参加店舗を増やすにあたって、営業先はどんな基準で選んでいるんですか?
永田:「3親等以内に候補者がいない」、「政党のポスターを貼っていない」とか、公職選挙法に違反しないようルールを決めています。投票を特定のところに誘導するようなことにならないよう気を付けた上で、片っ端から営業します。
今池:「クリーンにやっていきたい」という思いはすごくありますね。
—では、ルールをクリアしていればどこでも営業できるんですね! 興味のある業界の方にお会いできたりもするんですか?
小島:大アリです(笑)! 例えば私は音楽やエンタメが好きなので、そういう業界の会社に営業したり。まだ導入には至ってないんですけど、これまで芸能事務所やライブ制作会社の方にお会いすることができました。賛同はいただいているので、いつかご一緒したいですね。そうしたら、結構大きな動きを生み出すことができるんじゃないかな。
—業界研究ができるので、就職活動にも繋がりそうですね。最初は興味の無かった業界でも、お話することで視野が広がったりもしそうです。
高田:この前、全国展開している家電量販店に営業に行ったんですよ。偏見ですけど、大企業は広告効果を狙ってセンキョ割に協力してくれてると思ってたんです。でも実際にお話したら、担当の方が「(自社が参加することでの)センキョ割の皆さんのメリットはなんだろう?」って一緒に考えてくれたんです! いち学生なのに、こちらの立場まで考えてくれて……社会人って、こんなに良い人なんだ! って思いました(笑)。結果私たちの企画案を採用してくれて、電車に大きく広告を出してくださったんですよ。就活でインターンとかしましたけど、学生のうちに自分たちの企画が世に出るってなかなかないことですよね。センキョ割の活動に参加してから、こういうことがいっぱいあるんです。だから、もっと早くやっておけば良かった!
永田:僕は、大企業というより商店街さんとやりとりすることが多いんですよ。たまに小言を言われることもあるんですけど(笑)、地域密着のお店に関わることってこれまで無かったので、今まで見たことのない世界を見れたのはすごく大きいですね。
今池:僕は地元が国立市なんですけど、そこでいろんな方にお会いすることで「意外とこういうお店があったんだ」とか「地元はこういうことで困ってるんだな」と気付くことができて、センキョ割をやっていなかったら得られなかった視座を得られてるなと思ってます。活動を通して自分が成長できているな、と。
—大学生だとあまり地域の方や大企業の方と関わることが無いと思うので、その機会を得られるだけでも学びになりそうです。出張授業ではどんなことをするんですか?
永田:例えば、センキョ割で作っているアプリを使って模擬投票をしたり。
小嶋:初めての投票を完璧にできる人ってあんまりいないと思うんです。何回か投票行動を積み重ねてわかることもあるので、18歳になってからスタートするのではなく、選挙権が与えられる以前だったとしても、アプリを使うことでトライ&エラーを繰り返してほしいなって。あと、アプリで模擬投票をするとデジタル上で「投票済証明書」が出るので、18歳以下でもセンキョ割のサービスを受けることができるんです。ただの模擬投票で終わらず、例えば“ラーメン替え玉無料”とかがもらえたりするので、高校生でも「やってみよう」の入り口に立ちやすくなるという狙いもあって。
—模擬投票とはいえ「センキョ割」のサービスを受けられるので、社会の一員として選挙を体験できるんですね。
小嶋:学校の先生と打ち合わせすると、よく「実社会と結びついた、体験と感情が伴う教育があまり無い」という話を聞きます。どの学校も、社会と繋がった教育を欲していると感じますね。それから、最近は模擬投票以外にも“連携いただいた企業と高校生を繋ぐ”という取り組みも始めています。例えば、店舗に貼るポスターをデザイン科の高校生にデザインしてもらうとか。高校生がデザインをすると「作りたいものを作る」だけで終わってしまうけど、社会に出たらクライアントのニーズを汲み取って作らないといけないですよね。センキョ割を通じて社会と関わるというキャリア教育の側面についても、新たに動き始めています。
永田:それから、大学ではゼミの活動の一環としてセンキョ割を取り入れていただいているところもあります。
—ゼミでセンキョ割を取り入れるとは、どういうことですか?
今池:私たちがやっている活動を、そのままゼミの授業に取り入れていただいています。大学のまわりにあるお店にセンキョ割導入のご提案をしながら、困りごとをヒアリングしたり。地域の方とコミュニケーションが発生するので、それが地域教育の側面を持つんです。例えば「こういう言い方で話してみよう」とか戦略を考えたりもするし、「この地域は個人商店が多いんだな」とか地域の特徴が見えてきたりしますね。
いつか、センキョ割を国民的文化に
—そもそも、皆さんはどういうきっかけでセンキョ割に関わるようになったんですか?
永田:高校3年生のときに行っていた塾の講師が、たまたまセンキョ割の代表・佐藤章太郎だったことがきっかけで参加するようになりました。高1くらいから若者向けの政治系イベントに行ったり運営に関わったりしたんですけど、いわゆる“意識高い系”というか、やってる感だけの自己満に過ぎないなと思っていて。あまりよく思わなくなっていた時期に、ラーメン一風堂さんがセンキョ割キャンペーンをやってバズっていたんですよ。それで、たまたま塾の面談で章太郎さんに「こういうことをもっとやるべきだと思う」と言ったら、まさかの本人だったという(笑)。奇跡的な出会いを経て、活動を手伝うようになりました。今池も私と同じ塾に通っていて同じ頃から関わるようになりましたね。
高田:私は活動するようになったのは最近で、今年の3~4月くらいです。バイトが同じだった小嶋さんに誘われたんですけど、きっかけは私がバスケをやってることでした。バスケの「Bリーグの会長に会いに行かないか」って。センキョ割のことはあんまりよく分からないまま、小嶋さんと一緒にBリーグの事務所に行ったのが始まりですね。
小嶋:そうなんです。スポーツ業界も巻き込みたいと思って活動していたとき、Bリーグの会長が反応をくださって。私はバスケのことが分からなかったんで、バスケやっててこういう活動に興味ある子いないか探してて「あ、いる!」って(笑)。
—最初はミーハーな気持ちだったんですね。活動するにつれて、政治への興味は高まりましたか?
高田:そうですね。活動するのに自分が選挙に行かないのはおかしいし、ちゃんと投票できるぐらいまで知識を付けようと思っていろいろ調べるようになりました。あと、SNSで反応があるのを目の当たりにしたのも続けている理由ですね。検索すると、センキョ割を使った人のツイートがあったり、お店の人が反響を書いてくれたりしてるんです。自分たちがやってることで人が動いてくれるのが嬉しいし、面白いなって。
永田:ちょっとずつでも、もしかしたら変えられてるのかなって思えますね。
—自分たちの活動が、社会の動きに直結していると感じられてるんですね。小嶋さんはいかがですか?
小嶋:私は友達に誘われたのがきっかけで、大学3年から参加するようになりました。家族で選挙に行く習慣があったので、「投票は行くもの」って感覚は元からあったんです。でもリテラシーが高いわけでも、政治に興味があったわけでもなくて。活動するうちに、センキョ割の普及活動自体が教育的意義を持つんだなと思うようになったんですよ。今後は大学院に進んで、センキョ割が持つ意義を学問的にも研究していきたいと思ってます。いつか、センキョ割が国民的文化になって、社会参加するための土台になると良いなって。
今池:僕らのコンセプトは、「クリスマス・お正月・センキョ割」なんです(笑)。12月になったら街全体がクリスマスムードになるみたいに、選挙に行くことが文化になったらもっと変わっていくんじゃないかって。
下北沢を拠点にして、起きたこと
—前回の参議院選挙の際、ミカン下北内にある下北沢のワークプレイス「SYCL by KEIO」を拠点にしていたそうですね。ここを拠点にしたのはなぜですか?
小嶋:下北沢は若者が集まる街なので、センキョ割との親和性が高いと思っていたからです。下北沢には以前からセンキョ割を応援してくださっている方がいたこともあって、ここを拠点にすることで地域を盛り上げられたらと思って。それから、一時期京王井の頭線にミカン下北の広告がたくさん出ていたじゃないですか。それで調べてみたら「SYCL」にたどり着いたのですが「街とつながる」がコンセプトの場所だったので、私たちの取り組みとも掛け算ができるかなって期待も込めて。
—実際に拠点にしてみて、いかがでしたか?
今池:下北沢はどの大学からも乗り換え1回で来れるので、アクセスが良くて便利でしたね。
永田:「SYCL」はすごく過ごしやすかったし、拠点があることで心も楽になりました。他の入居者さんも、活動を理解して興味をもってくださる方が多くて。
小嶋:交流会や休憩のときにお話することがあって、活動内容に興味を持って応援してくださる方がたくさんいて。モチベーションにもなったし、場があるってすごく大事だなって。内輪でとどまらずいろんな人と繋がれたことは、大きな活力になりました。今は休会中なんですけど、第2の居場所ぐらいの感覚で。すごく恋しいです(笑)。
永田:入居していた学生で、センキョ割を実際に使ってくれた子もいました。
小嶋:そうそう! 友達に「センキョ割っていうのがあるから一緒に行こう」って言われたと報告してくれた学生がいて。私たちと同年代の子が、私たちと関係ないところでセンキョ割を知ってくれていて、しかも友達とのコミュニケーションのきっかけにもなっていて! ものすごく嬉しかったです。
—拠点を持ったからこそ気付けたことがあるんですね。下北沢で営業してみて、他の街との違いは感じますか?
小嶋:想いの強い方が集まっているという印象があります。だからこそ、想いを持ってやっている私たちに賛同してくださる方も多いのかな。
今池:下北沢でずっとセンキョ割の活動を続けているのもあってか、覚えててくれる方が多いと感じます。「一昨年来てくれた今池くんじゃん!」とか。覚えててくれたんだ!って。こういうのは下北沢くらいですね。
永田:それで思い出したんだけど、営業に言ったら「あら、もうそんな季節なのね」って言われたことがあります。この返しカッコいい! と思いました(笑)。
今池:あと、常連さんが「選挙はまだか」って言ってると教えてくれた喫茶店もあります。そこはセンキョ割の時期にコーヒーの回数券を割引してるんですけど、常連さんがその時期を狙ってまとめ買いするみたいで。その方は「衆院解散がこの時期になりそうだから、参院のときはこれくらい買っておこう」とか計画しているそうです(笑)。
—その方にとって、センキョ割が政治を考えるきっかけになっているんですね! 逆に、下北沢で活動することの難しさはありますか?
小嶋:ご指摘をいただくことはけっこうあります。「社会に出たらギリギリでことが進むことは無いから、もっと早めに動かないとダメだよ」とか。でもそれは街の皆さんが自分たちの活動に真剣に向き合ってくれているからこその厳しい言葉なんだと、すごく伝わってきて。これからも継続的に関わりながら盛り上げていきたいと思える関係性を構築できているかな。
—今後、下北沢でやりたい取り組みはありますか?
小嶋:あります! 下北沢って、道に入り込めば入り込むほどいろんなお店があるじゃないですか。だから「センキョ割賛同店MAP」みたいなものを作って、お祭りっぽく街全体でコラボできたら面白そうだなと思います。選挙って「若者が行かない」って言われてますけど、下北沢は古着とか映画とか、若者が集まるサブカル的なキーワードがたくさんある街なので。そういうジャンルともっとタッグを組んでやっていきたいですね。
永田:海外だと、ファッションや音楽が政治と近いところにあるんですよ。カルチャーと政治ってもっと繋がれる部分があると思うので、センキョ割がそのきっかけになれたら良いなと。下北沢でセンキョ割を広められたら、僕らがイメージしているような「クリスマス・お正月・センキョ割」みたいな文化的イベントの一つとしてセンキョ割を捉えられるようになるかなって。
―お話を聞いていて、センキョ割の活動を通して皆さん自身が楽しみながら成長されているのを強く感じました。下北沢から“選挙=文化的イベント”のカルチャーが発信されて、この活動が全国に広がっていくことを願っています。今日はありがとうございました!
(※撮影時のみマスクを外しています)