下北沢の老舗・金子ボクシングジム。会長の金子健太郎氏はあずま通り商店街の会長でもあり、長く下北沢に根付いている。インタビュー前編では、金子ボクシングジムの歴史や自身のルーツを聞き、「ナンバーワンではなくオンリーワンを目指す」という考え方に触れた。インタビュー後編では、長く下北沢を見つめてきた健太郎氏だからこその視点で「ジムと街のこれから」について語ってもらった。健太郎氏が叶えたい妄想とは?そして、健太郎氏が「隠し玉」と語る人物とは……?
※前編記事はこちら
下北沢をアミューズメントパークのような街に
—金子さんは、下北沢をどんな街にしたいと思っていますか?
金子:帰るときに後ろ髪を引かれて「もうちょっといたいな」と思える街。そして、「次は愛する人を連れてきたい」と思える、アミューズメントパークみたいな街にしたいですね。たとえば、ディズニーランドから帰るときって「また来たいな」とか「今回は家族で来たけど、次は恋人と来たいな」とか思うじゃないですか。そうやって帰るから、リピーターになると思うんです。同じように、下北沢も帰って行く人たちが後ろ髪引かれつつ「次は子どもを連れて来よう」などと思える街にしたい。僕がそういうことを言うと、「言うは易しだよ」とか「難しいよ」とか言ってくる人がいるんですよ。でも、そういう人がいるほど僕は「しめしめ、ありがとうございます」と思う。反骨精神というか、燃えてくるわけですよ(笑)。
行政や企業の兼ね合いもあるからすべては実現できないけど、商店街単位だったら「オブジェを置いてアミューズメント感を出す」とか工夫ができますよね。たとえばあずま通りだったら、カレーフェスティバルをやってるからカレーライスのオブジェを置く。一番街さんだったら天狗まつりをやってるから、天狗のオブジェがあるとか。商店街の窓口に一緒に写真を撮れるような造形物を置いておいたら、SNSで流行るかもしれないですよね。
—たしかに、商店街の象徴となるようなものが置いてあるのは面白そうです。
金子:今だったらアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』が人気だから、4つの商店街にひとりずつ登場人物の女の子たちのオブジェを置くとかね。そうしたら、中高生がやって来るかもしれない。
そういえば、この前Instagramでバズったんですよ。盆踊りで『ぼっち・ざ・ろっく!』のテーマソングに合わせて踊っている様子を、『しもブロ(下北沢情報サイト)』さん(※)がインスタに載せてくれて。そうしたら1週間で150万人くらいが反応してくれたんです。僕のところにも「会長、インスタで踊ってたでしょ」ってメールが10通くらい来ました。「バズる」っていうのを勉強できましたよ(笑)。
それから、住んでいる人たちの「意識が高い街」にしたいですね。街をより良い場所にする意識だと思うんです。ゴミが無い、落書きが無い、来る人達もマナーを守っている。だから、僕もゴミ拾いしながら歩いてますよ。
※参考記事:下北沢の街を見続けてきた老舗メディア「しもブロ」キュレーターと語る、この街の魅力と課題とこれからの新たな可能性。
商店街同士がより結束を深める未来
—金子さんが考える「今後の妄想」についてお聞かせください。まずは、ジムとしてはいかがですか?
金子:ジムで10人目の日本チャンピオン、そして2人目の世界チャンピオンを生むことですね。優秀な子たちが揃っているので、来年は「金子ジムの勝負の年」として、タイトルマッチを2~3試合組みたいと思っています。2025年に60周年を迎えるので、そのタイミングで2人目の世界チャンピオンが生まれていたら良いですね。60周年+世界チャンピオン誕生パーティーを、大々的にやりたい。ホテルオークラの平安の間かなんかでパーティーをして、僕は皆さんの前で祝辞を述べる……妄想で終わらせたくないですね!
—下北沢の街づくりの側面では、どんな妄想をしていますか?
金子:より一層、盤石な商店街連合会にしていきたいですね。世界的にも下北沢は注目されていますし、商店街同士が仲の良い街ってあんまり無いんですよ。だいたいのところは派閥があったり、張り合ったりしているそうで。下北沢は各商店街がしっかりスクラムを組んでますし、さらに町会ともいい関係性です。それぞれが協力的なのは下北沢の強みであり、オンリーワンですね。
—下北沢には6つの商店街がありますよね。昔から良い関係値だったんでしょうか。
金子:我々の親の代は、商店街同士で張り合ったりもしていたそうですよ。今でも、ちょっとした揉め事が起きることはあります。ただ、そういうことをバンと蹴散らせるくらい、理事長や会長同士の仲が良い。仮に商店街の若旦那同士で揉めることがあっても、その上の代は「俺は仲良くやるよ、毎日一緒に飲んでるんだから」と言うような関係性。そもそも商店街のトップ同士が同じ年代で、育った環境や価値観が大体一緒なのもあって、協力し合えるんですよね。
僕の想像ですけど、今の下北沢には「うちの商店街さえ良ければいい」と思う人はいなくなってるんじゃないかな。ひと昔前までは「うちさえ良ければ」と考えてましたけど、どこかだけ突出してもしかたがない。自分の商店街で実施するイベントにお客さんが来ることで、いかにほかも潤うかとみんな考えていると思いますよ。そう信じています。
甥っ子に託す金子ジムのこれから
—最後に、金子さん個人が描いている未来を教えてください。
金子:先ほどジムの妄想をお話しましたが、うちの“隠し玉”である甥っ子の金子佳樹に、日本チャンピオンになってもらいたいと思っています。下北沢で生まれ、下北沢の野球チームに入り、下北沢の学校に通った、金子繁治のDNAを受け継いだ男です。佳樹は高校・大学と野球に打ち込んでおり、プロを目指すほど本気で取り組んでいました。しかし夢は叶わず卒業後はサラリーマンをやっていたんですが、僕としてはそろそろ「誰かに次を委ねたい」という想いがあって、「3年で良いからボクシングをやらないか」と誘ったんです。名門校で野球をやっていただけあって、スタミナも根性もあるし、プレッシャーにも強い。プロを目指すということで“おじさんと甥っ子”ではなく“会長と選手”という関係でトレーニングをして、今年の4月にプロテストに受かりました。11月22日にはついにプロデビューします。
これは初めて言いますけど、いずれは佳樹に金子ジムの3代目会長になってほしいと思ってるんです。これが僕の、個人的な今後の楽しみですね。注目していてほしいです。
—下北沢にルーツのある甥っ子さんが、金子ジムの隠し玉なんですね。今後の活躍が楽しみです!
金子:ぜひ、デビュー戦から追いかけてもらいたいですね。金子ジムとしてこの地で60年近くやってきてるからこそ、結果も出さなきゃだめだなと思っています。「金子ジムの会長は一生懸命街づくりやって、保護司やってるね。でもあそこはひとりもチャンピオンがいない」ではシャレにならないと思うんですよ。先ほど(※前編参照)も言いましたけど、「ジャブ出せ」と言ったって出ないんです。「ジャブ出せ」と言わずともジャブが出るような選手を育てるのが重要。うちのトレーナーたちにも伝えてますよ。言うのは簡単だけど、やらせるのは大変。言わずとも結果的に勝ちを持ってくるような選手を育てることができれば、名トレーナーになれるし、金子ジムも俺も株が上がります(笑)。
—世界チャンピオンを輩出した金子会長が言うからこそ、説得力がありますね。
金子:良い選手を育てることはできたと思うので、今度は世界的に見ても優秀なトレーナーを育てたいですね。今こうやって語っていることが、数年後にすべて叶っていて「全部実現できましたね」と祝杯を上げたいです。「ただ言ってただけではなくちゃんと実現したね」とみんなに喜んでもらいたいし、そう言わせたい。それができたら、より説得力があるじゃないですか。
やっぱり、僕は人を喜ばせるのが好きなんです。そのためならば、チンドン屋にもなりますよ。だから商店街も会長っていう立場ですけど、汗水たらしてやぐらも組むし、テントも張る。「良い年して汗かいて」って言う人もいるけど、いまだにそうやって動いている自分が好きなんです。見てくれている人は絶対いますしね。
—金子会長の妄想、ぜひ実現していただきたいです。
金子:ほかにもまだまだやりたいことはありますよ!ひそかに思い描いているのは、「下北沢スポーツフェスティバル」。下北沢には、金子ボクシングジムがあって、フィットネスクラブもあって、下北沢成徳というバレーの強い高校がある。さらに、大学でバスケットボールを指導している経営者もいるんですよ。音楽祭や映画祭があるなら、スポーツのお祭りもあって良いですよね。僕の本業でもありますし、スポーツや健康に目を向けたフェスはやりたいですね。実現できたら、駅前にリングを立てて、そこにうちの佳樹が日本チャンピオンのベルトを持ってきて、凱旋試合をやって……どんどん妄想が湧いてきますよ。下北沢は、“妄想を妄想で終わらせない”街。全部、実現したいですね。