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誰かの“やってみたい”を街から応援──妄想を起点に実験的な取り組みをつくるきっかけの場『下北妄想会議』レポート

2026年2月27日下北沢。コワーキングスペース「Kanadebako」にて『超超超下北妄想会議』が行われていた。過去12回以上開催しているプログラム、『下北妄想会議』の特別版である。

『下北妄想会議』とは、京王電鉄ならびにそのグループ会社で商業施設の運営をする京王SCクリエイションと、働く場づくりに関する様々な支援・サービスを手掛けるヒトカラメディアがタッグを組んで開催しているプログラムだ。コンセプトは「誰かの“やってみたい”を下北沢の街とつなげる」こと。クリエイターや経営者、商店街関係者、会社員、学生……肩書きに捉われず、下北沢の多様なプレイヤーたちが自分の“やってみたい”妄想を通して繋がるきっかけの場となっている。

なぜ下北沢の街づくりにおいて『妄想会議』を実施するのか

ミカン下北を舞台に、京王グループとヒトカラメディアが仕掛ける『下北妄想会議』。ミカン下北をはじめ、下北沢の街づくりに取り組む彼らだが、とりわけ京王電鉄のような鉄道会社が、なぜ一見事業と無関係に思える「妄想会議」を企画しているのか? ユニークに感じる人も多いだろう。実はその裏には、京王電鉄が直面する課題と、次なる展開に向けた「実験」への熱意がある。

 

これまで京王電鉄では、「人が電車で移動する」前提のもと、駅を中心に事業を展開してきた。しかし、人口減少やテレワークの普及で乗降客数は減少し状況は変化。さらにもうひとつの柱である開発事業においても自社で開発できる余地が減少している。もはや、従来の「駅中心」のビジネスモデルは通用しない。

 

そこで京王グループでは、短期的な利益や賃料を追い求める従来型の事業に限らず、長期的な視点での「街づくり」へと、アップデートし始めている。駅という「点」から、街全体という「面」へ。“これまでにない価値”を提案すべく、コワーキングスペースの運営、地域と交わるイベント企画、オープンイノベーションの取り組みなど、街における存在感を高めていく施策を展開し始めている。

 

 

『下北妄想会議』は、そんな長期的な視点から「街への期待度を上げる」ための取り組みのひとつだ。街を訪れて楽しみ消む人だけでなく、下北沢で働く人や事業を展開する企業といった、「街の魅力を創り出すプレイヤー」をいかに巻き込み、増やしていくか。それこそが、魅力的な街づくりの原動力になる。だからこそ、京王グループがハブとなり、街の個性的なプレイヤーと、住民や学生といったユーザーとを次々とつなぎ、多種多様な個性が交わることで街を魅力的にするうねりを生み出していく。そのきっかけとなる場が『下北妄想会議』なのである。

定期イベントをさらに進化させた『超超超下北妄想会議』

“超超超”という枕詞がついた今回は、定期開催されている『下北妄想会議』をさらに発展させた特別版だ。この場のゴールはただ一つ、「こんな妄想するなんて思っていなかった!」と参加者全員が思えること。

まず同じテーブルについたメンバーとともに、自分の妄想を共有。その妄想にさらに、「こんなことができるかも!?」「わたしこれできる!」とそれぞれの考えを掛け合わせながら妄想を膨らませていく。

賑わう中スタートした『超超超下北妄想会議』。どのように妄想が広がっていったのか。

ヒトカラメディア・影山さん

 

まずはテーブルに置いてあった「PARTYカード」に情報を記入する。所属や名前、自分の“やってみたい”妄想を書き、それをもとにメンバーと交流した。参加者がどんな人かお互い知り合う時間。単なる自己紹介で終わるはずもなく、開始早々白熱し、司会からストップが入らなければ止まらないほどの盛り上がりとなった。

 

参加者のワークシート(自己紹介で使用したPARTYカード)

場があたたまったところで、同じテーブルに集まったメンバー同士の妄想を掛け合わせ「こんなことできるかも」と妄想を膨らませる「“超”妄想会議」タイムへ。テーブルに置かれた大きな模造紙にそれぞれの妄想を貼り付け、「これとこれを繋げたら面白そう!」などとペンでコメントを書き込みながら、アイデアを掛け合わせていく。しかしそれだけでは終わらない。さらに妄想を加速させるため、ペンを持ってほかのテーブルをまわり、応援やコメントを加えていく「“超超”妄想会議」タイムへ。

参加者のワークシート(超妄想ワークシート)

ほかの人の妄想を掛け合わせ展開をつけることで、ひとりではたどりつけない「妄想のアップデート」へ。イベントは常に賑わっていた。

 

最後は、各テーブルの超超妄想を発表。
「天狗を祀った神社をイメージしたイベントスペースを設置し、文化や宗教などをごちゃまぜにした非言語パフォーマンス(ダンスや音楽など)を行いたい」

「若者が夢を追う街・下北沢で、街の人から学ぶことができる弟子入り制度を確立したい」

「下北沢発のクラフト酒をつくりたい」

「京王電鉄のホームをステージに、電車内を観客席にした音楽ライブを行いたい」

「下北沢の街全体を遊び場にする“下北ワールド”をつくりたい」……といった自由な妄想が語られた。

自分では辿りつかない妄想

『超超超下北妄想会議』終了後は、「妄想スナック」と題された懇親会がスタート。話し足りない様子で語らう参加者たちに合間を縫って声をかけ、イベントの感想や参加の動機を聞いた。

ベイプ屋の店長・ペイペイさんは、知人から「“妄想を発表する”のが初めての経験でとても楽しい場だった」と話していたのを聞き、ずっと「自分も行きたい」と思っていたとのこと。実際に参加した感想を尋ねると「自分ではこんな結末には辿りつかない妄想が出てきて、イメージがどんどん湧いてきてすごく楽しかった」と語る。同じテーブルに座ったメンバーとも意気投合し、今度食事をする約束をしたそう。「“飯友”ができました! studio YETに参加しようかという話も出ているんですよ」と、今後も意欲的な展開になりそうだ。

ベイプ屋の店長・ペイペイさん

劇・小劇場の1階でチャイスタンド『ChaiPio』を営むピオさんは、今回で『下北妄想会議』は3度目の参加。人との繋がりを大事に『ChaiPio』を営んでいるというピオさんは、ここにも「繋がりを求めて」やってきているそう。「繋がりが一番大事だと思ってお店をやっているので、人との繋がりで成り立って循環している下北妄想会議には、お店の常連さんも誘って参加しています」とのこと。人を巻き込んでいく循環に“下北沢らしさ”を感じていると言う。

『ChaiPio』を営むピオさん

しもきた商店街振興組合の小清水さんは「若い人が集まって柔軟な話をしているので、すごく良い会議だと思う」と『下北妄想会議』を評価。一般的な会議は「堅い話」ばかり語られがちだが、ここでは「街をどうしようかと自由に話している」と感じるそう。ただ、まだまだ突飛な意見を求めているそうで「この場だから出せるもっとぶっとんだアイディアも欲しい!」とも明るく語る。参加者たちが語る妄想について「できなくないことがいっぱいあるんで、一つひとつ実現できたら街はもっと面白くなる」と未来を見据える。「下北沢は枠にとらわれず、自由になんでも言って良い場所なんですよ。私たちがつくってきた街は、若い人の力で進化させていいんです。街って生き物だから。今の良いDNAを大切にしながら次に進まなきゃいけないので、新しい取り組みがしたい人がいたら全力を尽くしますよ!」と力強い言葉が。「昔を知っている人がやるからこそ良いこともあるけど、若者が新しい風を吹かせるのも必要。街づくりには若者や女性が少ないから、どんどん参加して下北の街をつくってほしいですね」と語る。

写真左:しもきた商店街振興組合 小清水さん/写真右:京王グループ 石塚さん

主催者のひとりである京王グループの石塚さんは、「4年もやっていると形骸化してしまいそうですが、『下北妄想会議』は常連さんも、初参戦のかたも、ありがたいことに絶えないんです。」と言う。『超超超下北妄想会議』に関しては過去最大の参加者数だったそうで、街からのニーズも感じているようだ。『下北妄想会議』の参加者は、参加者同士の繋がりがきっかけで増えていることがほとんど。「1度参加した方が、面白かったよと伝えてくれて、ほかの人を呼んでくれる」という『下北妄想会議』は、イベントとしてかなりレアな立ち位置を築いているのではないだろうか。

ひとりでは実現できない妄想も、ほかの参加者や商店街関係者、街のプレイヤー、そして京王グループの手を借りれば、本当に実現できるかもしれない。ここで出た妄想は、「どうやって実現する?」という次のステップへ進んでいく。「“やってみたい”を“やってみた”に」をコンセプトに定期開催されている実験応援プログラム『studio YET』では、妄想実現に向け、3ヶ月かけて京王グループやヒトカラメディアが伴走する。ただ妄想だけでは終わらない。ここで出た「妄想」が、街との繋がりを経て、実現されることに期待が高まる。

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取材・文:堀越愛  撮影:隼田大輔(幽玄舎)
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