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“街のあちこちで実験中”。ミカン下北4周年イベント「実験中展 -立入解禁-」が体現する未完の肯定(後編)

ミカン下北の開業4周年を祝うべく、2026年3月20日(金・祝)〜30日(月)の11日間、下北沢にて開催された「実験中展 -立入解禁-」(以下、実験中展)。

進化を続ける、常に“ミカン(未完)”な街下北沢にて、下北沢で活動する人たちによるさまざまな“実験”が同時多発的に行われた本イベント。下北沢という地でどのような化学反応が起こったのか。前編に続き、その様子をレポートする。

前編記事はこちら

https://jikkenku.tokyo/interview/3829/

目指せ白衣着用率100%「PANCETTA LAB」

実験中展のなかでもひときわ異彩を放つ実験があった。パフォーマンスユニット「PANCETTA」による企画。その名も参加型実験「PANCETTA LAB」。ミカン下北を行き交う人々に白衣を着用してもらい、その着用率100%を目指すという公開社会実験だ。

一見無意味とも思える「白衣をただ着用して歩く」という行為。企画者に聞いてもやはりあえて意味をもたせていない。そんな無意味な行動へ、参画してくれる人は7日間でどのくらい増えていくのか。通路に隣接されたラボには毎日代わるがわる個性的な研究員が集まり、どうしたら白衣を着てくれる人が増やせるのか、頭をひねる。

「白衣着用で○○プレゼント!/○○割引!」などの、白衣着用以外の物理的なインセンティブは与えない、という前提のもと、アイディアを出し合い、「毎日18時にダンダンで集合写真撮影」「着てくれてありがとうと感謝を伝える」などの実践を重ねた結果、初日の着用人数が3時間で15名だったのに対し最終日には200名を超え、総勢631名が着用するという予想を超える実験結果に。毎日のように顔を出すリピーター研究員も生まれるなど、実験への共感も呼んだ。

このように来場者は鑑賞者であると同時に“研究員”のような立場で参加ができるという、「実験中展」全体のコンセプトとも呼応する取り組み。その背景には、一見すると意味のなさそうなことさえ面白がり、場として受け止める下北沢らしい風土があることを実感させる企画だった。

JAM LABO Prod.By Eresia によるセッションライブ

3月29日(日)、駅前に位置するミカン下北入り口では、JAZZ HIPHOP BAND『Eresia』による「JAM LABO Prod.By Eresia」も開催。アイキャッチオブジェ前には特設ステージが設けられ、日曜の昼下がりに心地よいR&BやJAZZ HIPHOPを中心とした演奏が展開。「Just the Two of Us」や「Feel Like Makin’ Love」といった名曲から、「丸の内サディスティック」、即興のフリースタイルラップまで、ジャンルを横断する自由な音楽が駅前の風景を彩った。

演奏には次々と参加者が加わり、通りがかりのアーティストや、ライブ後のアイドルまで、入れ替わり立ち代わり即興で音を重ね合わせた。日本では普段なかなか見ることができない街なかで自然とジャムセッションが立ち上がっていく様子は、音楽を通じた交わりが街に根付く下北沢らしい光景だった。終盤には「PANCETTA LAB」と交差し、セッションメンバーが白衣を纏って演奏をする展開に。「実験中展」ならではの実験精神が、音楽を通じて更新され続ける時間となっていた。

インターネットとリアルな場を行き来する、体験型「リアル謎解き」

本イベントでは会期中、リアルな場であるミカン下北と、インターネット上とが連動した謎解きゲーム「リアル謎解きARGゲーム『下北沢タイムスリップ』-過去に囚われし男を救え-」を開催。本謎解きは、リアル体験型モキュメンタリー®「HAZE coffee」を手掛けたCosmic Magicがプロデュースし、“物語没入体験”を軸に謎解きコンテンツを展開するピントクル株式会社のクリエイター・海野名津紀(けんぴ。)と、タッグを組んで制作されたものだ。

ミカン下北を回遊しながらモキュメンタリーの世界に入り込む体験型イベントで、あらかじめ公式サイトのQRコードからゲームをスタートさせ、Web上で謎解きを進めたのち、ミカン下北をはじめとした下北沢の街中にて謎解きをする必要がある。

ストーリーは、とある掲示板を覗くところから始まり、ある日消えた男が過去からメッセージを送っていることが明らかになる。巷で話題の「下北沢タイムスリップ」と、謎解きを絡めた現実と虚構を行き来する体験に。難解な謎メッセージを解読しながら体験者は“男”とWeb上でメッセージを交換し合う。全てをクリアするには必ずミカン下北や街中に潜むヒントを巡らなければならない仕組みになっており、参加者たちは謎解きをクリアすべく現地を訪れ、お互いに交流する姿も見られた。

謎解きを進めていくと、一見解読できない文字が…

見方を変えると、読めるように浮かび上がってくる仕組みなども

一見「ただの」おみくじ体験に見えるものも、実はヒントへの手がかりになっていたり…

現地調査を進めていくと、マルシェ下北沢に位置する「スティールファクトリー」へのヒントへと進む。まさに下北沢を回遊しながら、謎を解いていく体験が設計されていた

謎解き終盤では、リアルのゴールスポットでの演出が仕掛けられており…

恐る恐る踏み込むと、そこには「タイムスリップの現地」にアクセスできるものとなっていた。

ミカン下北店舗も料理で“実験”

本イベントの“実験”の中には、いつもと違った“料理”で体験できるものまであった。それが、飲食店が提供する「実験メニュー」の数々だ。これは、会期中ミカン下北にある5つの飲食店が、実験的な背景をもつメニューを提供するという内容で、人気メニューをさらに改良したメニュー提供や、賄いを実験的な提供など、工夫を凝らした魅力的な「実験メニュー」がラインアップ。

今回伺ったのは、「チョップスティックス」と「下北沢ミートブラザーズ」の2店舗。初めに来店したのは、『グリーンカレーのフォー』を提供する「チョップスティックス」だ。本メニューは、賄いでしか試していなかった商品を実際に商品化し、イベント終了後に通常メニュー化するかどうかを実証実験するというもの。「グリーンカレー」と聞くと、どうしても辛い味を想像してしまうが、こちらはマイルドで深みのあるクセになる味。レンコンやトマト、コーンなど、刻まれた数種類の野菜が入っており、食感も楽しい、まさに「実験メニュー」の名にふさわしい一杯だ。

本メニューについて店長に話を聞くと、そこには下北沢らしい背景が隠されていた。

「『グリーンカレー』は、もともとメニュー化はしておらず、賄い用に余った材料で作ってみたものです。そうしたら、スタッフからとても好評で。うちでは、賄いは基本的に『余った食材で何かを作る』というスタイルなので、中華などを作ることもありますね(笑)」

「『ミカン下北』自体が、名前にもあるように未完で実験的な場所なので、新しいことにチャレンジしようと思えるというのもあるし、こういったイベントを機に『これ作ってみませんか』と相談されることもある。新しいことにトライできて、かつ新しいことを知れるのはここならではだと思います。今後も、ベトナム料理を尊重しつつ、枠に収まらず、“遊び心”を持って楽しんでいきたいですね」。

 

続いて向かったのは、「下北沢ミートブラザーズ」。こちらで提供されているのは、タコス×ジビエの可能性を実験する『イノシシタコス』だ。「イノシシ」と聞くと、抵抗感をおぼえる人や、反射的に独自の匂いをイメージしてしまう人もいるかもしれない。だが、『イノシシタコス』を一口食べると、そんな不安は一気に吹き飛んだ。独自の臭みはまったくなく、脂身が少ないイノシシ肉は、タコスのスパイスやライムとの相性抜群。スタッフの方に話を聞くと、「もともとはサンフランシスコのレシピを使ったタコスを提供するお店」だというが、なぜイノシシ肉にトライしたのだろう。

 

「日本でやっている以上、やっぱり日本を融合させたいよね、という話が持ち上がって。『じゃあ海外から来る方々があまり食べないものってなんだろう?』と考えたときに浮かんだのが、神戸牛でした。初めは神戸牛を試して、その後うちが展開している別業態の飲食店でジビエ料理を出すようになったので、『タコスにも合うんじゃないか?』ということで、今回メニュー化しました。イノシシ肉は山椒との相性も良く、結果、日本っぽい組み合わせのタコスが完成しました」

下北沢を舞台にした、読み進める「マーダーミステリー」

ミカン下北A街区に位置する「TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢」にも“実験”が。こちらでは、体験型イベントを企画運営するSallyが、ブック形式の「マーダーミステリー」を実験的に制作し、TSUTAYAにてポップアップで販売。本イベントにむけて新たに書き下ろされた下北沢オリジナルストーリーが収められており、赤い封筒が店内でも目立っていた。

“実験”を読もう。読む実験中展『いつまでも未完成な私へ』

読んで楽しむ“実験”はマーダーミステリーだけに留まらず、「読む実験中展『いつまでも未完成な私へ』」と題した、掌編小説も手に入れることができた。『いつまでも未完成な私へ』を手掛けたのは、俳優・難波なうと、脚本家・蓮戸良によって立ち上げられた演劇プロジェクト「ツギタシ」だ。

全4ページに渡る本小説は、実際に実験中展に訪れた主人公の視点で描かれる。実在の場所が作中に登場し、展示体験と物語が重なり合う体験ができた。こちらは会期中にミカン下北の各所に小説が設置されており、見つけないと続きが読めないというもの。

“未完”な自分自身との葛藤と、そんな自分を受け入れる過程が描かれており、ミカン下北や下北沢にまた違った視点を与えてくれた。

下北沢のシェアハウスの住人が行う「ガレージセール」

最後に訪れたのは、A街区の高架下スペースで行われたガレージセールだ。こちらは、下北沢のシェア型賃貸住宅「シェアプレイス下北沢」の入居者が3月20日(金・祝)〜22日(日)の3日間に渡り実施したもの。入居者たちが持ち寄った古着屋、ハンドメイド作品などが販売された。

店先に立った入居者有志たちからは、「イベントで何かを販売するのをずっとやってみたかったので夢が叶いました」、「こうやってスタッフとして参加できているのもシェアハウスならではだし、下北沢ならではだな、と思います」と、笑顔がこぼれた。


11日間に渡って行われた「実験中展 -立入解禁-」。さまざまな“実験”に多様な人々が参加し、垣根なく交流する様子は、ミカン下北が根底に持つ想いにも通じるものだった。4周年を迎えたミカン下北。ここを起点に、進化し続ける未完の地・下北沢での新たな挑戦や実験的な取り組みが益々広がっていくのが楽しみだ。

Information

取材・文:那須 凪瑳  撮影:YUKI KAWASHIMA
ミカン下北4周年「実験中展-立入解禁-」
ミカン下北4周年「実験中展-立入解禁-」
開催期間:3月20日(金・祝)~3月30日(月)
開催場所:ミカン下北 施設内共用部および対象飲食店舗(最寄り駅:京王井の頭線 下北沢駅)

<常設イベント>
「ミカン下北」飲食店舗での実験メニュー提供
日付:3月20日(金・祝)~3月30日(月)
場所:下記参加店舗
参加店舗:ダパイダン105、チョップスティックス、鎌倉山米店×うなぎの寝床、下北沢ミートブラザーズ、大衆ビストロハルタ
主催:各参加店舗

CREATIVE WALL
日付:3月17日(火)より開始
場所:MURAL MEDIA at ミカン下北(ミカン下北B街区アクセス道路沿い壁面)
主催:株式会社NOMAL ART COMPANY

マーダーミステリー
日付:3月20日(金・祝)~3月30日(月)
場所:ミカン下北A街区「TSUTAYA BOOK STORE 下北沢」
主催:株式会社Sally

読む実験中展『いつまでも未完成な自分へ』
日付:3月20日(金・祝)~3月30日(月)
場所:ミカン下北入り口・各所
主催:ツギタシ

<期間限定イベント>
只今装飾中―立入解禁―
日付:3月20日(金・祝)9:00~完成まで
場所:ミカン下北

リアル謎解きイベント「下北沢タイムスリップ」―過去に囚われし男を救え―
日付:3月20日(金・祝)~3月29日(日)
場所:ミカン下北
主催:株式会社Cosmic Magic/海野名津紀(けんぴ。)

“下北で働く人“公開スナップ撮影「Photo at SHIMOKITA - Working in Shimokitazawa」
日付:3月20日(金・祝)
場所:下北沢周辺(ユニクロ下北沢店)
主催:東京都実験区下北沢

三社合同公開勉強会 Craft Session #0
日付:3月20日(金・祝)~3月23日(月)
場所:ミカン下北E街区2階「砂箱」
主催:株式会社コネル、株式会社エイド・ディーシーシー、Think & Craft

シェアプレイス下北沢ガレージセール
日付:3月20日(金・祝)~3月22日(日)
場所:ミカン下北A街区1階「東通り沿いPOPUPスペース」
主催:シェアプレイス下北沢入居者有志

PANCETTA LAB by PANCETTA
日付:3月24日(火)~3月30日(月)
時間:毎日16:00~19:00
場所:ミカン下北A街区 ダンダンよこ
主催:PANCETTA

古着ンピック2026
日付:3月28日(土)14:00~15:00
場所:ミカン下北A街区「ダンダン」
主催:合同会社Business Amplify Lab

発酵デパートメント 新商品実験販売
日付:3月28日(土)12:30~18:00
場所:ミカン下北駅側エントランス
主催:発酵デパートメント

JAM LABO Prod. by Eresia
日付:3月29日(日)13:00~17:00
場所:ミカン下北A街区2階 駅側入口
主催:Eresia
Jikken*Pickup_