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下北沢の街に芸人が飛び出す!?「下北GRIP」が仕掛けたお笑いの実験、お笑いライブフェス『下北www.』で起きたこと。

2023年5月18日(木)~21日(日)、ミカン下北を舞台に新感覚のお笑いライブフェス『下北www.2023』が開催された。これは、「普段は閉じられた環境で行われているお笑いライブが、下北沢の街に飛び出したらどうなるのだろう?」という想いから生まれた実験的な取り組みだ。お笑いライブ団体「下北GRIP」と京王電鉄株式会社がタッグを組み実現した、本イベントの様子をレポートする。

「下北GRIP」から生まれた新しい実験

『下北www.2023』を主催した「下北GRIP」は、長年下北沢でお笑いライブを開催している団体だ。お笑いライブのほとんどは事前予約制で、出演する芸人のファンが観に来ることが多い。一方、「下北GRIP」はライブ前に芸人たちが呼び込みを行い、お客さんは観覧無料。つまり、客席にいる多くは芸人のファンでもなく、お笑い好きでもなく、ただ”下北沢を歩いていた”人。週末になると、下北沢駅前で「お笑いライブ観ませんか?」と呼び込みをしている芸人を見たことがある人も多いのではないだろうか。

多様な属性のお客さんの前でネタを披露するということもあり、「下北GRIP」の舞台は、芸人にとって自分たちのネタを精査できる良い環境になっているようだ。過去の出演者の中には、『M-1グランプリ』など大型賞レースのファイナリストに登り詰めた芸人もいる。

『東京都実験区下北沢』では、昨秋「下北GRIP」代表の和田祐さん、構成作家の比嘉夢丸さん、長年ライブに出演している芸人のヒガ2000さんにインタビューを行っている。そこで比嘉さんが語っていたのが、「下北沢のほかの事業者さんも巻き込んで、みんなで楽しい街にできたら」ということ。「下北GRIP」は長年下北沢で活動している割に、他業種とコラボレーションしたことがほとんど無かったという。また、「飲食店でライブができないかな」という具体的なアイディアも飛び出していた。このインタビューから約半年を経て実現した『下北www.』は、「下北GRIP」が下北沢に根付くための大きな一歩になりそうだ。

※関連記事はこちら 『「お笑い」が、いつか下北沢のアイコンに。芸人の修行場・下北GRIPが目論む次の一歩』
https://jikkenku.tokyo/interview/2671/

4日間の軌跡

『下北www.』は、通常は劇場で行われているお笑いライブを”下北沢の街”で観ることができるイベントだ。ライブの開催場所に選ばれたのは、ミカン下北の【飲食店】【大階段(通称ダンダン)】【B街区屋上】。

平日の18日(木)・19日(金)は飲食店で、20日(土)・21日(日)は大階段や屋上でもお笑いライブが行われた。また、土日は出演芸人による生配信イベントも実施。さらに「下北GRIP」の本拠地である劇場「下北スラッシュ」では、芸歴やコンビ結成歴などが”1年目”の芸人のナンバーワンを決める大会『スタートダッシュ!』を開催。複数の場所で催しが行われることから、「下北GRIP」スタッフに加え京王電鉄株式会社の担当社員、当メディアの編集部メンバーらも総動員して、イベントが運営された。

 

<1日目(5月18日)>

【ライブ開催場所&出演芸人】
〈19:00~〉下北ミートスポット:ぷぅ、ぬえ、ヤダヤムクン、アオドラ
〈19:30~〉ダパイダン105:安⼼安全、ULTRA SUPER BOYS、⿃⾕尾だいき、たくろうビスケット
〈20:00~〉ザ・トリフターズ:ぷぅ、ぬえ、アイドル⿃越、ヤダヤムクン
〈20:30~〉楽観:安⼼安全、ULTRA SUPER BOYS、⿃⾕尾だいき、たくろうビスケット

この日の傾向は、ライブ目当てに訪れたというよりたまたま居合わせたお客さんが多かったこと。しかしそこは普段からお笑いファン以外の前でネタを披露している「下北GRIP」芸人たち、巧みにお客さんを引き込む技が光っていた。芸人によっては、飲食店に備え付けのテーブルやイスをネタに活用するといった工夫をする者も。「飲食店の店員」や「居酒屋」など、コントの設定を飲食店に寄せる芸人もいた。普段の劇場では、ネタに合わせて小道具を用意することがほとんど。飲食店という舞台があらかじめ決まっていたからこそのネタ選びも面白い。

 

<2日目(5月19日)>

【ライブ開催場所&出演芸人】
〈19:00~〉チョップスティックス:駆け抜けて軽トラ、ヒガ2000、マードック、⻄ノ京
〈19:30~〉アイランドバーガーズ:観⾳⽇和、フタリシズカ、元祖いちごちゃん、ハンナッシュベティー
〈20:00~〉下北ミートスポット:駆け抜けて軽トラ、マッハスピード豪速球、ヒガ2000、マードック
〈20:30~〉楽観:観⾳⽇和、フタリシズカ、元祖いちごちゃん、ハンナッシュベティー

雨天ということもありお客さんの入りは少なめだったが、イベント目当てに訪れた人も。下北ミートスポットはアクセス道路に面しており、道行く人も背面からライブを観ることができた。ライブは予約制ではないため、「たまたま食事をしに来たらお笑いライブが始まった」というお客さんのほうが多い。芸人によっては、「どうしたらライブ目的ではないお客さんの興味を引けるか」という課題も残ったようだ。本ライブに限らず、野外での営業など”ライブ目当てではない人”の前でネタをする機会は多い。芸人にとっても少なからず学びのある試みになったようだ。

 

<3日目(5月20日)>

【ライブ開催場所&出演芸人】
・大階段(ダンダン)
〈13:00~〉ドドん、エイトブリッジ、もりせいじゅ、マードック、シマウマフック
〈16:00~〉ドドん、エイトブリッジ、もりせいじゅ、マードック、承子クラーケン
・屋上
〈15:00~〉安⼼安全、ヒガ2000、⾦澤TKCファクトリー、ぴろしき/エレベーターボーイ:ユビッジャ・ポポポー
〈18:00~〉安⼼安全、ヒガ2000、⾦澤TKCファクトリー、ぴろしき/エレベーターボーイ:ユビッジャ・ポポポー
・韓国食堂&韓⽢味ハヌリ
〈14:00~〉トキヨアキイ、さんだる、⿃⾕尾だいき、⻄ノ京
〈17:00~〉トキヨアキイ、⿃⾕尾だいき、⻄ノ京

晴天ということもあり、終日すべてのライブが盛況。特に大階段でのライブは足を止めて観る人が多く、「詰めて座ってください」というアナウンスが必要になる局面も。また、屋上ライブの際はエレベーターに”エレベーターボーイ”が常駐。奇抜なスタイルでお客さんを待ち受け、移動中にもエンターテインメントを提供した。

 

<4日目(5月21日)>

【ライブ開催場所&出演芸人】
・大階段(ダンダン)
〈13:00~〉エイトブリッジ、本多スイミングスクール、パチョレックスター、未来の油⽥、Yes!アキト
〈16:00~〉エイトブリッジ、本多スイミングスクール、パチョレックスター、未来の油⽥
・屋上
〈15:00~〉ぷぅ、さんだる、ぴろしき、ハンナッシュベティー/エレベーターボーイ:もりせいじゅ
〈18:00~〉ぷぅ、さんだる、ぴろしき、ハンナッシュベティー/エレベーターボーイ:もりせいじゅ
・韓国食堂&韓⽢味ハヌリ
〈14:00~〉ブリキカラス、駆け抜けて軽トラ、ヤダヤムクン、がんばる太郎
〈17:00~〉ブリキカラス、駆け抜けて軽トラ、ヤダヤムクン、がんばる太郎

この日も晴天に恵まれ、前日以上にたくさんの人がライブを観覧した。エイトブリッジやYes!アキトなどメディアでもおなじみの芸人が大階段ライブに出演し、道行く人が「あれ、〇〇じゃない!?」と驚いている様子も見られた。屋上ライブは立ち見が出るほど盛況。複数ライブを計画的にハシゴするお客さんもいた。

下北沢はお笑いの聖地?

4日間のイベントを終えた直後、主催者である「下北GRIP」の比嘉さん、ライブに出演したエイトブリッジ・本多スイミングスクールさんにインタビューを行った。下北沢の街中でお笑いライブをするという初めての試みに、芸人たちはどんな印象を持ったのだろうか。また、次に仕掛けたい実験のアイディアとは?

—4日間のイベントを終えて、率直に今どう思っていますか?

比嘉:木金はステージによってお客さんが少ないところもあったんで、心配を抱えたまま土日を迎えたんですよ。でもどのステージもいっぱいお客さんが入ってくれて良かったですし、たくさん笑っていただけて。今は正直、安心の気持ちが大きいです(笑)。

—エイトブリッジさんと本多スイミングスクールさんは、大階段でのライブに出演されましたね。ライブをやってみて、いかがでしたか?

エイトブリッジ・篠栗(以下、篠栗):屋外ですし上には電車が通ってるので、お笑いには不向きかなと思ったんですよ。でもそれが気にならないくらい、お客さんがいっぱい集まって笑っていただけて。本当に楽しかったですね。

本多スイミングスクール(以下、本多):外でのライブで、お客さんがこんなにあったかいのは初めてです。

エイトブリッジ・別府(以下、別府):みんな、ちゃんとネタを見てくれました。ノリが良かったと思います。下北沢に来る人は、明るい人が多いのかもしれないですね。

—たまたま通りかかって観ていた方も多かったので、一般的なお笑いライブに来るお客さんとは層が違いますよね。その違いは感じましたか?

本多:分かりやす~いネタがウケました(笑)。

別府:そうですね。「そういうことか」って分かりやすいのが良いのかなと思います。あと、普段ライブに来るお客さんとは人が違いますよね!

篠栗:だからそう言ってるでしょ!その違いがどうなのかっていうのを聞かれてるの(笑)。たまたま観てくれた方が、お笑いに興味を持つきっかけになったら良いなと思いますね。今後、ライブにも足を運んでもらえるようになったら嬉しいです。

—ライブ中、特に印象に残ったハプニングはありますか?

比嘉:エイトブリッジさん、ネタ飛ばしてませんでしたっけ?

篠栗:えー、そうですね。僕らは2日連続でネタ飛ばしました。

別府:まぁあれは、飛んだうちに入らないと言いますか……。

篠栗:入るよ(笑)!飛んでるよ、しっかりと。

別府:え~、あの、まぁ、お客さんが持ってた紙コップがね、風で飛んじゃって。それでネタも飛んだんですよね。

篠栗:お客さんのせいで飛んだってことですか?

別府:いや、グリ(篠栗)が紙コップを追いかけたせいで……僕のせいではないと言いますか。

篠栗:俺のせいなんだ(笑)。芸人ってネタを飛ばしてもごまかして続けるんですけど、別府ちゃんははっきりと「あー、ダメ!飛んだな~」って言ってました(笑)。でもそのとき、お客さんがワッと笑ってくれたんですよ。ほかのライブだったら、ネタを飛ばしたら心配そうな顔をされることも多いんですけど。お客さんが別府ちゃんのキャラを分かってくれてたのかな。助かりましたね。

別府:はい、ありがたいです。お客さんに感謝ですね!

比嘉:あと、嬉しい悩みですけど席を詰めないといけないくらい人が集まりましたね。

別府:そんなにたくさん足を止めてくれた人がいるって、嬉しいですね。

比嘉:本多さんを見て「ブレイキングダウンに出てた人だ!」とか、「別府ちゃんだ!」とか、通りすがりの人達が言ってくれてましたよ。

篠栗:僕ら、1年目の頃から下北沢でビラ配りしながら無料ライブに出てたんですよ。当時は素通りされまくってたんで、そんな下北沢で顔を指してもらえるようになったって本当に嬉しいです。

—ほかの街に比べて、下北沢の人に感じる特徴はありますか?

篠栗:好奇心旺盛な方が多いと思います。下北沢じゃなかったら、「下北GRIP」でやってるような無料ライブに「行ってみよう」と足を運んでくれる人はあんまりいないと思いますよ。

別府:駅の周りに商業施設があるし、コンビニも行きやすいし、髪も切りに行きやすいし、住みやすい街ですよね~

篠栗:そういうことを聞かれてるんじゃないの、別府ちゃん(笑)!下北沢の街にいる人は、ほかと比べてどう違いますかって聞かれてるの。

別府:あ~、なんでしょうね~。下北沢はお笑いが好きな人が多い気がしますね。ほかの街だったら、こんなに人は集まらなかったかも。だから、芸人の聖地かもしれません!

—今後、下北沢でやってみたいお笑いに関する“実験”はありますか?

比嘉:屋上でのライブがすごい気持ち良かったんですよ。お酒を飲みながらお笑いライブを観れたら最高だなと思います。開放感がすごいし、周りになにも無いのでネタにも集中できるし。

別府:良いですね!いろんな屋上でやったら面白そうですね。あと、下北沢といえばミュージシャンの方がいっぱいいらっしゃるので、音楽×お笑いのフェスみたいなのがあったら良いですね。

本多:前に、ラップとカレーのイベントがありましたよね。そこにお笑いも参加しても良いんじゃないかな?

比嘉:今度、下北沢でプロレス団体ができるんですよ。そういうところともコラボできたら良いですよね。

篠栗:あと演劇の方もいますから、コラボしたいですね。例えば、演劇の合間に漫才をやるとか?…………今の無しでお願いします(笑)。

本多:今の絶対に使ってください(笑)!

別府:一番、ちゃんとしたこと言いそうな人なのに!アイディア無いなら無いで良いですよ!

篠栗:いや、ひねり出します。

別府:10秒でお願いします。10、9、8……

篠栗:……古着の街ですから、ファッションとのコラボとか!古着屋さんに衣装をプロデュースしてもらって漫才をやるって、どうですか?

楽屋トークの様子もミカン下北の公式チャンネルから配信されていた。芸人の飾らない普段の姿を垣間見れるような楽しい雑談のほか、ゲームあり、大喜利ありの賑やかな内容。芸人ならではの悩みがこぼれるシーンもあり、リアルイベントとは別の楽しみ方ができるコンテンツだった。

 

音楽や演劇、古着など、「下北沢といえば?」と聞かれたら思い浮かぶカルチャーはたくさんある。一方でこれまでは「お笑い=下北沢」のイメージはあまりなかったように思う。ただ、下北沢に思い入れを持つ芸人は多く、お笑いライブも日々たくさん開催されている。「お笑い=下北沢」のイメージは、もっと定着されて良い。4日間かけて大々的に開催された『下北www.』を経て、お笑いがこの街にどっしりと根付き始めた感覚がある。これから下北沢で、「お笑い×〇〇」のコラボレーションが次々と起こる予感を感じたイベントだった。

Information

取材・文・写真:堀越 愛
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