10月6日(月)~10日(金)に、下北沢で“誰かと働く”をひらく実験『I am working in shimokitazawa with___』が行われた。下北沢で働く人々をテーマに、街全体をひとつのワークプレイスとしてつなぐ本イベントでは、下北沢で働く人のための「下北WORKERsユニフォーム」の配布・販売や、5つのコワーキングスペースを特別な条件で利用できる「下北沢コワーキングPASS」などに加え、各エリアで多彩なイベントを開催。街との関わりや人とのつながりが広がる5日間となった。
長年、「遊びに行くところ」というイメージの強い街だった下北沢。音楽や演劇、ファッションなど目立つアイコンはたくさんあるが、いわゆるオフィス街のような“働く”場所とは馴染み薄い街だっただろう。しかし、ここ数年は少しずつ変化している。特徴的な強みを持った個性あふれるコワーキングスペースが増え、コワーキングコミュニティ発のイベントも頻繁に行われるなど、“遊び”に密接するように、“働く”街としてのイメージが着々と浸透してきている。
時代の変化に伴い、場所に制限されない働き方が定着していることこそ誰もが知るところだが、ではいったい「あえて下北沢で働く」ことの魅力とはなんなのだろうか? キープレイヤーが集った「SETAGAYA WORK CONNECTキックオフイベント」を中心に、『I am working in shimokitazawa with___』という実験について振り返る。
『I am working in shimokitazawa with___』とは
『I am working in shimokitazawa』(以下、IWS)は、下北沢で“働く”価値を高めるためにスタートした実験企画。初回開催の2022年には「下北沢で働きたくなる実験」、2024年にはコンセプトに「as___」を掲げ、「下北沢でどのような人が働いているのか可視化する実験」を開催。
この街で起きた、熱いムーブメントの連鎖。 下北沢で働きたくなる実験イベント「I am working in Shimokitazawa」レポート。
“人との距離が近い街”下北沢で働く意味と価値。『I am working in Shimokitazawa as』インタビュー
三回目となる今回のコンセプトは「with___」。多様な人々が多彩なスタイルで働くようになった下北沢で「各所で働く個性あふれるワーカー同士の交流を促進することで、更なる価値を生み出すことができるのか」という実験だ。期間中は下北沢にある5つのコワーキングスペース(KanadeBako、SYCL by KEIO、tefu lounge、BONUS TRACK MEMBER’S、ロバート下北沢)や世田谷区の産官学連携の取り組み「SETAGAYA PORT」とも連携し、様々な試みが行われた。
「IWS」がきっかけに。「SETAGAYA WORK CONNECT」が始動
10月6日(月)には、世田谷で働く人と場所をつなぐプラットフォーム「SETAGAYA WORK CONNECT」誕生にあたりキックオフイベントがコワーキングスペース・KanadeBakoで開催された。
「SETAGAYA WORK CONNECT」とは、世田谷区内の多彩なワークスタイルを紹介するプラットフォーム。場所ごとに異なる特色を持つコワーキングスペース同志をつなぎ、利用者の交流を促進することで、地域の関係人口拡大と新しい協働の可能性の創出を目指している。今回の「IWS」企画段階にシナジーが生まれ繋がったこの機会。絶好のお披露目となった。
運営しているのは、世田谷区が推進する産業創造プラットフォーム「SETAGAYA PORT」。社会や地域、ビジネスの課題を解決するために、人やアイディアを“リミックス(融合)”させて新しいビジネスやカルチャーを世田谷区から生み出すためのコミュニティだ。区内外の企業やフリーランス、大学、金融機関など、20~40代の若手を軸に多様な世代・業種の人がメンバーとして活躍している。イベントには、下北沢にある5つのコワーキングスペースが参加。各スペースの特徴や魅力について一同に会して語られた。

周辺に緑が多いという「BONUS TRACK MEMBER’S」。20~50代の幅広い会員が在籍しており、利用者同士の会話からプロジェクトがはじまることも

「誰かの”やってみたい”が街と繋がる」をコンセプトに据える「SYCL by KEIO」。個室や複数名オフィスまであるなどプランが充実。フルタイムプランだと365日・24時間利用可能

「遊びながら働く、働きながら遊ぶ」がコンセプトの「ロバート下北沢」。デザイン会社が運営しており、作業以外にも、休憩や読書、昼寝もOK

駅直結の「tefu lounge」は、内装にもこだわるおしゃれなスペース。併設するカフェのコーヒーが最大3杯まで飲み放題で、スタッフとの会話も息抜きに

「KanadeBako」は、士業専門家が運営するスペース。公認会計士・税理士資格を持つオーナーに無料相談できるのが強み
「お互いに信頼を損なわないよう頑張れる」
続いて、実際に各コワーキングスペースを利用している5名によるトークセッションを実施。

BONUS TRACK MEMBER’S:見米 峻史(ディレクター・ライター/制作会社LOOP 代表)、SYCL by KEIO:山田 翔大(株式会社YOAKE 代表取締役CEO)、ロバート下北沢:東 孝弥(ベーシスト・映像クリエイター)、tefu lounge:清野 奨(アニューマ合同会社代表)、KanadeBako:池尻 直人(社外経営企画パートナー/トラスタライズ総研㈱ 代表取締役)
彼らに共通しているのは、下北沢という場所の“人や文化”に魅力を感じていること。一般的なオフィス街とは異なり、下北沢に集うのは多様なバックストーリーを持つワーカーたち。街中にも個性的なお店も多く、独特の文化を持つ街だと評価していた。また、やりたいことがある人・熱量を持って働いている人が多く、その分“新しいこと”に挑戦する人を受け入れる寛容さもあると語る。
コワーキングスペースでの出会いが仕事につながった事例も多いようだ。たとえば「SYCL by KEIO」を利用している山田氏は、SYCLのつながりから顧問弁護士を決めたそう。「勝手知った仲の方にお願いして一緒にやったほうが、お互いに信頼を損なわないよう頑張れる」とコミュニティ内で仕事をする利点を語った。
トークセッション終了後は、イベント参加者を交えた交流会が行われた。

下北沢にある居住型教育施設「SHIMOKITA COLLEGE」に住み、社会人チューターとして働いている潟中さんは「下北沢のコワーキングスペースについて知りたい」という動機で本イベントに参加したそう。「SYCL by KEIO」の担当者と仕事で一緒になる機会があり、「ほかのスペースも見てみよう」と思ったのだとか。下北沢に住んで約半年という潟中さんいわく、下北沢は「“こういう人もいて良いんだ”と受け入れる土壌がある」街。圧倒的に住みやすくて面白いお店が多く、「土日はいろんなカフェで仕事をする」ことを楽しんでいるのだとか。
また管理栄養士・防災士として活動している神田さんは、20年ほど前に下北沢で働いていたことがあるそう。現在は世田谷区内で働いており、「SETAGAYA PORT」のイベント情報告知経由で本イベントを知って参加したのだとか。下北沢に限らず様々な場所で仕事をするため「コワーキングスペースは必要なときにドロップインで使えると便利」と要望を語った。

働く街・下北沢のこれから
IWS期間中は、キックオフイベントのほかにも様々な関連企画が実施。 “下北沢で働く人々のためのユニフォーム”として制作されたオリジナルTシャツは、マルシェ下北沢に拠点を構えるTシャツ工房「スティールファクトリー」の制作で、期間中には店舗内でTシャツをアレンジできる企画「下北WORKERsユニフォーム オリジナルTシャツアレンジ」も行われた。
下北WORKERsユニフォームはミカン下北内のTSUTAYA BOOKSTOREでの数量限定販売に加え、無料配布チャレンジとして10月6日(月)に、“下北沢をねり歩く二人の下北ワーカーズを探して声をかける”イベント「下北ワーカーを探せ!」も開催。


「#下北沢で働く」をつけたSNS投稿画像を見せると、Tシャツをゲットできるキャンペーンを実施
下北沢発のアイドルグループ「マイナーガール」がオリジナルプリント体験をサポート。直前に発表となったゲリラ感も下北沢らしい。


下北沢発のアイドルグループ「マイナーガール」がサポートし、お気に入りのワークスペースロゴなどをTシャツにプリント
また、ユニフォームを手に入れた人には、5つのコワーキングスペースを回遊できる「下北沢コワーキングPASS」が発行される。対象者は期間限定で対象の5つのコワーキングスペースを利用でき、下北沢で働く可能性を存分に感じることができる本イベントを象徴する、有意義なチケットとなった。この機会に普段とは違うワークスペースで仕事した方は、「なかなかない経験で貴重な1回でした。また行きたくなりました!」と語っていた。
さらに、この「IWS」ムーブメントに伴い、各エリアで関連イベントが続出した。10月9日(木)〜10月26日(日)まで開催された「下北沢カレーフェスティバル2025」に際し、「下北WORKERsユニフォーム着用でスタンプ1つプレゼント」のキャンペーンが「I LOVE 下北沢」主催で実施。そしてKanadeBakoや、BONUS TRACK MEMBER’Sでもワーカーに向けたトークイベント、最終日にはBROOKLYN ROASTING COMPANY SHIMOKITAZAWAにて「はたらく大人の後夜祭 supported by Jameson」が行われるなど、下北沢拠点の10以上のコミュニティとコラボが開かれた。


ここ数年で、下北沢の様子は大きく変わった。再開発により駅前を中心に整備されたことで、利便性が上がり訪れる人々も変わってきている。それに伴い、複数のコワーキングスペースが誕生。それまでにはなかった“働く街”としての機能も循環し、下北沢を拠点にする人の性質も少しずつ変化しているように思う。とはいえ、古着や音楽、演劇といった下北沢“らしさ”は健在。それらカルチャーが働くことに絡み、良い相互作用のもと、新しい文化が育っている。今後、下北沢を起点にどんな可能性が生まれるのか。柔軟で受け入れ態勢のある街だからこそ、既存事例に捉われない新しい“なにか”が生まれるのではと期待の膨らむ期間となった。

