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グローバルな視野を武器に、ラーメンをアップデート。 この街に「楽観」というジャンルをつくる。

飲食店が立ち並ぶ東京・西麻布に2011年にオープン。わずか4席からスタートし、その後は国内で順調に売上を拡大。2017年のアメリカ・ロサンゼルスへの出店を皮切りに、海外に“日本のソウルフード”であるラーメンの魅力を発信してきた「楽観」が、2022年満を持して下北沢に進出する。グローバルな視野で多くのトライを続けてきたラーメン店が、この街で仕掛ける“実験”とは何か? 同社副代表の村田裕さん・下北沢店店長の熊倉渉さんにお話を伺った。

「ラーメン」というフレーズを商品名に使わない

最初に、「楽観」設立の経緯を教えてください。

村田:代表の伊東良平と私で2011年、個人事業としてスタートしました。伊東は2、3歳からの幼なじみ。お互いの家族ぐるみで仲が良く、人生の9割5分を一緒に過ごしてきたような関係です。現在、彼はアメリカを拠点に事業を携わっています。

もともと伊東は国内外でバックパッカーをしたり、ピースボートのコックをしながら世界を二周もしたりするような大の旅好き。彼と一緒に海外旅行に行ったりしているうちに、「将来、ふたりで海外に住もう」という話で盛り上がりました。そして海外に住むのであれば、何か海外で勝負できる商売をしようと。

当時私は23歳、自分たちに一体何ができるか、全くの未知数でした。しかし「本気になればイケるっしょ」と、海外進出を前提とした起業を決意。そこから試行錯誤がありましたが、最終的に「ラーメン」を事業にすることに。自分たちがラーメン好きだったのもありますが、当時ラーメン市場が急拡大していて、ビジネスとしての勝機を感じたからです。

副代表の村田さん。国内の店舗を取り仕切る

起業と同年の2011年に、1号店の西麻布店をオープンされましたね。

村田:「日本の本物を世界に発信する」というコンセプトで開業しましたが、まずは日本国内で成功しなければ話になりません。ですから、他のラーメン店との差別化を意識して西麻布店ではわずか4席、大きな看板も出さない隠れ家的な店舗というチャレンジをしました。

大きな特色としては、ラーメン店でありながら、商品名に「ラーメン」というフレーズを使わないこと。醤油と出汁の旨味が後を引くメニューは「琥珀(こはく)」、数種類の厳選した塩を使用し作るメニューは「真珠」とネーミング。最初は、宝石屋さんと間違えて入店される方もいるほど、業界では異端なことでした。

これらの実験的な取り組みは、一般的な飲食店としてはハードルを上げるものです。しかし、たとえビッグマウスと思われたとしても、高い理想を持ち、内容をそれに伴わせようと努力することで、企業として成長できるという確信がありました。ゼロからのスタートで、失うものは何もなかったからこそ、できたことでもあるかもしれません。

澄んだスープが美しい、「特製真珠」(画像提供:楽観)

挑戦を続け、「未完成」であり続ける

その後まもなく、西麻布店は「行列のできる店」として注目を浴びるように。立川店をはじめ、国内で順調に店舗を増やしていかれます。

村田:子どもの頃、外食に行くとなんとなくうれしかったように、飲食業の根本の価値は「日常のちょっとした贅沢」なのだと思います。そして、楽観はそんな価値を、高いクオリティで安定的に提供できる存在でありたい。

その価値を支えるのは、素材や出汁へのこだわり。たとえば、楽観の醤油は、元禄元年創業の柴沼醤油醸造の木桶仕込みで造る一等醤油を使用しています。まろやかで力強い、大豆の旨味とコクが特徴で選定しました。どのメニューも、微細な調整を行いながらたどり着いた味のバランスです。

おかげさまで10年以上ビジネスを続けてこれましたが、この味で完成とも思っていません。時代や状況に合わせて、ベストは更新されていくものです。実際、2017年のアメリカ・ロサンゼルスの出店を皮切りにした海外進出でも、楽観の味を現地で再現するのに困難があり、調整を重ねる必要がありました。

特に、どのような点が苦労されたのでしょうか?

村田:輸出の関係で、物理的に日本と同じ素材が使えなかったことですね。当初はどうしても日本と同じ味にならず、悔しい思いをしました。しかし、日本と同じやり方にこだわっても仕方ありません。現地で使える材料を使って、味わいをアミノ酸組成レベルで再構築するなどしながら、楽観の真髄を表現することに集中しました。

現地のマーケットをよく観察・調査し、ゆったりとしたレストラン型店舗にしたことで、人気店に成長(画像提供:楽観)

真髄を表現するための方法論は、柔軟であってもいいということですね。

村田:はい、そうでなければ、ここまで店舗を拡大できなかったと感じています。他にも調整したのは、鰹節、昆布、新鮮野菜を使用したオリジナルの出汁スープの取り方。味の要ですから、出汁文化が当たり前ではない海外のスタッフにも確実に出汁が取れるように、出汁パックのかたちで輸送するようにしています。

「幼なじみと海外で仕事をする」という実験は続いています。今後、アメリカ以外の国への出店やフランチャイズ展開も予定しています。それぞれの地域や形態に合わせて、こまかな調整が求められ続けることになると思いますが、そこはむしろ楽しんでいきたいです。

下北沢店の店長を務める熊倉さん(左)と村田さん

「ラーメン店に行こうぜ」ではなく、「楽観に行こうぜ」

グローバルな視野を持ちながら、たくさんの実験を積み重ねてきたのが楽観の強みだと思います。海外経験が現在の楽観に生かされていることはありますか?

村田:ここ数年、インバウンド需要を見越し、日本の飲食業でヴィーガン(卵や乳製品を含む、動物性食品を含まない食生活)志向が高まりましたよね。うちはそれよりやや早いタイミングで、本場アメリカにおいてヴィーガン料理に取り組むことができたのはアドバンテージかもしれません。

楽観ラーメンの美味しさを、動物性食品を使わず成立させるのは簡単なことではありません。日本の楽観でヴィーガンラーメンを試験的に提供したこともあるのですが、正直失敗しました。まだ、ヴィーガン文化が根付いていない国で実践することの難しさを自覚しましたし、生半可な気持ちではできないからこそ、楽観が担い手になっていきたいですね。

国内外で実績を積み上げ、2022年下北沢に出店されます。この街への期待値は?

熊倉:独自のカルチャーを持ちながら、飲食店激戦区である下北沢は特別な場所。楽観初の新築物件での開業、さらにコロナという状況もあり、先が読めない部分もあります。プレッシャーがないわけではありませんが、やりがいがある街です。

実は今回2階部分での出店ということもあり、立地的には簡単に集客しやすい場所ではありません。しかし、楽観の魅力と感じている、ラーメン店らしからぬモダンな雰囲気とこの味で存在感を発揮できればと思います。

下北沢に出店を機に、新たに試みたい“実験”はありますか?

熊倉:基本的には、こだわりのメインメニューは変わりません。ただ、今回いちから内装をつくれたことでオペレーションが整い、新商品として「焼き餃子」を準備中です。また先ほどお話のあったヴィーガンへのチャレンジの一貫として、焼き餃子にさらにひねりを加えた「ヴィーガン餃子」も開発中なので、楽しみにお待ちいただきたいですね。

最後にこれからの目標をお聞かせください。

村田:「近くにあるから」でも「何かラーメンを食べたいから」でもなく、「楽観に行こうぜ」というような一つのジャンルになることを目指しています。またコロナ前から注力していたECサイトを、国際的に展開することも準備中です。単純な話ですが、世界中のお客様の胃袋が掴めたら、それだけ可能性が広がるはずなので。

素晴らしい企業がたくさんある中で、楽観は成功の過程にあると思います。店名には「世の中を楽観的に」という思いがありますが、我々も自ら前向きに実験を重ねながら、下北沢、そして世界を盛り上げていきたいですね。我々はまだ30代、守りに入る年代ではないと思いますから。

Information

取材・文:皆本類 / 撮影:岡村大輔
楽観(ラーメン専門店)
楽観(ラーメン専門店)
D街区2F
2011 年「日本のラーメンを世界に広める」ことを目標に西麻布からスタートし、アメリカ・ロサンゼルス等海外にも複数の店舗を持つラーメン店。洗礼されたお出汁と厳選された食材のみを使用し、試行錯誤のうえに辿りついたこだわりの一杯を提供する。一番人気のメニューは特製琥珀(醤油)。
Web
https://rakkaninc.com/
Instagram
@rakkanjpn
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