国内最大級の古着コミュニティ「古着女子」で知名度を上げ、現在18のファッションブランドを運営しているyutori。2018年4月に創業後、2020年夏にはZOZOと資本業務提携を締結、今年8月にはオフィスを拡大し下北沢へ移転、と急成長を遂げている。代表の片石貴展さんに、どんなビジョンを持ち下北沢へ拠点を移したのか、今後この街で仕掛けてみたい実験などを中心にお話を聞いた。
「好きなことを、好きな人とやりたい」を体現
―まずはyutori創業の経緯と事業内容を教えてください。
大学卒業後、モバイルゲームなどを手がける株式会社アカツキに2年ほど在籍しました。アカツキではマザーズ上場の大きな変革期を経験しました。その後、自分が昔から好きだったストリートカルチャーや洋服に携わる仕事をしたいと考え、2018年に大学時代からの友人とyutoriを起業しました。現在は『9090』や『genzai』など公式で発表しているもので18のファッションブランドを運営しています。
―24歳の若さで起業することに、戸惑いはなかったのでしょうか?
父親が起業家だったので、起業すること自体に戸惑いはなかったです。それよりも、今やらなきゃ、という想いが強くて。当時「古着女子」の企画を先輩方に話したとき、「どうやったらお金になるの?」と誰にも理解されなかったんですが、上の世代の方が理解できないことこそ、自分が形にするチャンスだ!と思ったんですよね。当時からファッションにしても音楽にしても、「これがきそう」という目利きみたいなものには自信があったので、自分の想いやそのときの感覚を信じてみようと思いました。
―理解されない=チャンスだと捉えて「古着女子」のヒットに繋がったのですね。創業から4年ほど経ち、ブランドも増えていますが、創業当初から変わらず大事にしていることなどはありますか?
もともと、“好きなことを好きな人とやりたい”という想いからこの事業を始めました。なので自分も社員も「好きなこと」に特化して取り組むということを大事にしています。例えばyutoriは完全分業制なのですが、これは好きな分野・得意分野で最大限のパフォーマンスを出してほしいという意図があってのことです。自分の経験上でもそうですが、人って苦手なことは続かないじゃないですか。得意・苦手が個々で違うからこそ、その凸と凹を埋め合える関係が社内で築けたらいいなって。
一方で、“好きなこと、得意なことだけをやる”って裏を返せば、数字が出なかったり、うまくいかなかったときも、「好きなんでしょ」と言われたら言い訳ができない厳しさもあります。だから洋服を「好き」であることの責任の重さは自分も感じていますし、社員も同じだと思っています。自分の好きなものを貫くのって簡単なようで難しいし、意志の強さが必要なことなんですよね。
―“意志の強さ”という言葉が出ましたが、今年から掲げられているミッション「TURN STRANGER TO STRONGER(ハグレモノをツワモノに)」にも、そのような背景が関係しているのでしょうか?
創業時から今年までは「臆病な秀才の最初のきっかけをつくる」というミッションでした。ゼロから創業した自分たちもそうですが、“持たざるものの弱さがあったとしてもやりたいことはやろう、一緒に一歩踏み出そう!”というメッセージを込めて作ったものだったんです。でも、コロナ禍を経て世の中で流行っているコンテンツを見たときに、今は「強いものについていきたい」という風潮があるな、と感じて。その時代背景や自分たちのビジネスモデルの変化も鑑みて、今年から
「TURN STRANGER TO STRONGER(ハグレモノをツワモノに)」に変えました。僕自身JPOPの歌詞をよく読んでいて、思っていることを言語化することも好きなんですが、今回は前のポエムのようなメッセージから、歌詞っぽく変えたいという思いもありました。根幹的な意味は以前から変えていませんが、好きなことをやりきる強さ、継続させる意志の強さを大事にしよう、という力強いメッセージが伝わればと思っています。
歩いているだけでアイデアが浮かぶ街
―ミッションを見直されたタイミングで、オフィスも神泉から下北沢へ移転されました。下北沢を選ばれた背景も教えてください
僕も創業メンバーも大学がこの辺りだったのと、渋谷の前はもともと下北沢にオフィスを構えていたのもあって、下北沢は昔から馴染みの場所だったんです。音楽や洋服など、好きなことが全部詰まっている街だからまたいつかここにオフィスを、と思っていたのがついに実現しました。僕らのビジネスのユーザーが一番多い街だからというのも大きな理由です。
D2Cビジネスだと、どうしてもWEBサイトの向こう側とこちら側でのコミュニケーションになりがちですが、この街を歩いていると実際に僕らのブランドを着てくれている人とすれ違って、ユーザーの着こなし方なども直接見れるんです。これってまさにユーザーと“ダイレクト“にビジネスしてるなって。もちろん今の流行りにも敏感になれますし、街にいる人を眺めるだけでもインスピレーションが沸くので、歩いているだけでアイデアが浮かぶ街なんです。それに自分たちが手がけた服を着ている人が少なければ、もっとがんばらなきゃとも思いますし、この街にいる人たちが指標になっている部分もありますね。リモートワークも推奨していますが、ここに移転してきてからは社員の出勤率も上がっていますし、きっと社員全員が少なからずこの街からの刺激を受けていると思います。
―洋服を作る側としてみたら、最高の環境ですね。
企画を立てて、2ヶ月後には実物を世に出して、その反応がすぐに返ってくる。そして次回の企画にその反応を活かす、というのを非常に早いサイクルで動かしています。そういう意味では日々実験を繰り返してしている感覚ですが、すぐにユーザーの反応を感じ取れる下北沢の街にいることは、とても意味のあることなんですよね。
―下北沢が学生時代から馴染みのある場所ということですが、ここ最近の街の変化はどうとらえていますか?
新しい施設などもできて、下北沢の間口が広がったなと感じています。昔の方がニッチなイメージだったのですが、今はもっと多様な層がいて、それぞれが楽しめる街になっているなと思います。その賑わいの中に劇場や古くからの喫茶店など昔からのカルチャーも残っていて、ちょうど良い感じの雰囲気だなと。“カルチャーの匂いのする大衆性”、言い換えると“良質なPOP”を感じられる街になっていると思います。
ナードからオープンに。街を舞台にしたファッションショーもやってみたい
―yutoriのイメージにも近い言葉ですね。そんな下北沢で今後仕掛けてみたい実験はありますか?
僕らの活動って、今まではどちらかというとナードにやっていた部分が大きいと思っていて。でも各ブランドが知られてきたこのタイミングにオフィスも下北沢に戻ってきたので、もう少しオープンに人や他社を巻き込んで何かをやってみたいと考えています。ある程度自分たちがこれは提供できる、という知見や実績が明確になってきた今、誰かと何かをやるのに相応しいフェーズに入ったなと感じているんです。
―すでに何か具体的なアイデアはありますか?
例えば街を舞台にしたファッションショーとか面白そうですよね。今後、20を超えるブランドを一つのサイトにまとめていく計画もあるので、そのタイミングでできたらいいなと考えています。コロナ禍の反動もあって、少しずつリアルイベントも増えてくると思うので、ユーザーも含めた街のみんなが楽しめるようなものを実現できたらいいですね。
―すてきなアイデアでワクワクします!最後にyutoriの今後の目標などがあれば教えてください。
一人一人のオリジナリティを大事にして、その個性を最大限に活かしあえる会社でありたいなと思っています。若くて、尖っていて、面白い考えを持った人たちが「yutoriで一緒にやりたい」と、ノックし続けてもらえる存在であり続けたいですね。