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街や店が音楽ライブのステージに—ONSTAGE仕掛ける『下北沢ミュージックフェア』

2024年11月24日(日)〜25日(月)、ミカン下北にて、音楽イベント『下北沢ミュージックフェア』が開催された。同イベントでは、ミュージシャンたちの演奏を無料で楽しめる。仕掛け人は、アーティストとステージのマッチングを行うONSTAGE。この記事では、イベント当日の様子とイベント開催の裏側を紹介する。

「音楽の街」下北沢で、もっと音楽を身近にするイベント

下北沢は、様々なカルチャーが集まる街だが、その中でも“音楽”をイメージする人も多いだろう。たしかにライブハウスやレコードショップが点在し、街を歩けば楽器を背負った人とよくすれ違う。しかし、そんな街でもミュージシャンのライブによく足を運んでいるという人はどれくらいいるのだろうか? 日常的にミュージシャンの生の演奏に触れているという人は意外と少ないのではないか。

 

それに対し、『下北沢ミュージックフェア』は、普段はライブハウス等で活動するミュージシャンたちの魅力をもっと多くの人に知ってほしい、下北沢の音楽カルチャーに触れる機会を作りたいという想いから生まれたイベントだ。主催のONSTAGEは「いつでもすぐそこにステージのある世界を」というビジョンを掲げ、ミュージシャンとステージをマッチングさせるアプリの開発を行っている。今回は、ミカン下北というステージに、様々なジャンルのミュージシャンを抜擢し、新たな音楽イベントの開催を成功させたのである。

REPORT:下北沢ミュージックフェア

『下北沢ミュージックフェア』が開催された11月24日(日)〜25日(月)、ミカン下北には日中から夜まで通して生演奏が鳴り響いた。ミュージシャンたちは、ミカン下北の高架下通路や大階段(通称ダンダン)、複数の飲食店内でパフォーマンスを実施した。ここでは様々な場所で行われたライブパフォーマンスの様子を紹介する。

【大階段(ダンダン)】

ミカン下北の中央に位置するダンダン。普段から休憩場所として、この大階段に座ってゆったりと過ごす人々をよく見かける。そんなダンダンはイベントの期間中、ライブの座席に変身。

 

11月25日に登場した岸本ゆめのさんのライブを覗いてみると、ダンダンにはお客さんが集まり、階段の上までオーディエンスで溢れていた。歌声に合わせ、手拍子やコーラスをする観客も多くいた。中には、岸本さんのライブを目当てに初めて下北沢を訪れたという方も。

 

さらに、ダンダンは道路に面しているため、道ゆく人々がライブを目にして足を止める場面も多々見られた。ミカン下北を中心として、下北沢の街に音楽体験が広がっていく瞬間を見たように感じる。

【高架下通路】

飲食店が立ち並ぶ通路でも、複数回のパフォーマンスが行われた。ピアニストののもさんは、様々なクラシック楽曲を披露。普段は大学生をしているというのもさんは、緊張した面持ちでパフォーマンスに臨んだ。学校帰りの小学生や、買い物帰りのおばあさん地域の方まで、様々な人が歩く夕方のミカン下北にキーボードの音色が響いた。

お店を飛び出し、ミカン下北を練り歩きながらパフォーマンスをするアーティストもいる。シンガーソングライターのAkykさんがその1人だ。ミカン下北を通る人々と目を合わせながら、空間を大胆に使ってパフォーマンス。コンクリートでできたミカン下北の中で、Akykさんの伸びやかな歌声が大きく鳴った。

下北沢には海外からの観光客も多く訪れる。日本人だけでなく、多様な国の人々が、ミュージシャンたちのパフォーマンスを見て足を止め、拍手を送っていた。さらには、演奏後のミュージシャンに駆け寄って声をかける人も。まさに、街の人々が音楽をより身近に感じる機会になったのではないだろうか。

【飲食店】

11月25日は、ミカン下北内の飲食店でもライブが実施された。ベトナム食堂「チョップスティックス」でライブを行ったanagonさんは、「こんな風に、飲食店の中でライブをするのは初めて」と話す。

 

お店を覗くと、カップル、友達同士、1人で訪れた方と様々な観客が集まっていた。それぞれに食事を楽しみながらも、anagonさんの歌に合わせて手拍子をしたり、一緒に歌を口ずさんだりする場面も見られた。

また、高校生シンガーのかんのんさんは夜の「下北沢ミートブラザーズ」でライブを実施。観客たちはクラフトビールを片手にかんのんさんの力強い歌声を楽しんだ。もともとかんのんさんを知っていてライブに訪れた人もいれば、外からライブを見かけて、お店に入店を決める人も見受けられた。

<1日目(11月24日)>

〈12:00~〉通路:市川大樹 (X / IG
〈12:40~〉大階段(ダンダン):帆風海 (X / IG)(X / IG
〈13:20~〉1階エレベーター前:Lennon Mori(X / IG
〈14:00~〉通路:node to node(X / IG
〈14:40~〉大階段(ダンダン):もえた(X / IG
〈15:25~〉通路:露(つゆ)(X / IG)/1階エレベーター前:飯澤遥土(X / IG
〈16:05~〉大階段(ダンダン):Akyk (yobai suspects)(X / IG
〈16:35~〉通路:三浦善(X / IG

 

<2日目(11月25日)>

〈12:00~〉通路:りょうとつばさ(りょう:Litlinkfly / つばさ:Litlinkfly
〈12:40~〉大階段(ダンダン):町山碧(X / IG
〈13:20~〉通路:木暮杏一郎(IG
〈14:00~〉大階段(ダンダン):深水彩穂(X / IG
〈14:40~〉通路:リフの惑星(X / IG
〈15:25~〉大階段(ダンダン):岸本ゆめの(X / IG
〈16:05~〉通路:のもさん(X / IG
〈17:20~〉チョップスティックス:anagon(X / IG
〈18:00~〉ハヌリ:エナミハナ。(X / IG
〈18:35~〉ハヌリ:Akyk (yobai suspects)(X / IG
〈19:30~〉ミートブラザーズ:かんのん(X / IG
〈19:45~〉ミートブラザーズ:楠野遼 (futures) (X / IG
/Mamiya (Navajo)  (X / IG

主催・ONSTAGEに聞く、下北沢ミュージックフェアの裏側

イベント終了後、主催者のONSTAGEの長塚さんにインタビューを行った。下北沢ミュージックフェアが生まれたきっかけや、イベント実施までの軌跡、今後の展開などを詳しく聞いた。

—普段、アーティストとステージのマッチングアプリの開発をされているかと思いますが、この事業が始まった背景を教えてください。

ONSTAGEは「いつでもすぐそこにステージのある世界を」というビジョンを掲げ活動しています。このビジョンのもと、世界中どこでもアーティストが自由に創造性を発揮できる場をつくり、気軽に人前で演奏できる機会を提供したいという思いから、このマッチングアプリの開発を始めました。

 

アーティストは自身の才能を多くの人に知ってもらい、副収入を得るチャンスも広がります。また、リアルでしか味わえない“濃い”体験を提供し、自らの表現を通じて人々が繋がることのできる“手触り感”を大切にしています。

—ONSTAGEのスタートには、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

私自身幼い頃から「ものづくり」に夢中になるタイプでした。また、大学の津軽三味線サークルの活動を通じて、人には年齢や性別を越えて自己表現をしたい、創造性を発揮したいという強い欲求があり、そういった活動をしているとき人は最も輝くことに気付きました。

 

そして、誰もが気軽に自己表現をしたり創造性を発揮できる環境が整えば、世界中の人々が幸せになり社会の発展にも繋がるのではないか、という考えに至ったのが活動の原点です。

—アーティスト×ステージのマッチングを行う際に、特に意識しているポイントを教えてください。

アーティストとステージをマッチングする際には、アーティストの音楽性やイメージが会場やお店の雰囲気と合っているかを特に大切にしています。この調和が取れていると、アーティストは自然体で演奏を楽しむことができますし、その結果、観客も心地よく音楽を楽しめると考えています。

 

例えば、落ち着いた雰囲気のカフェでは、アコースティックな音楽や柔らかな演奏スタイルのアーティストが適しています。一方、活気あるバーやクラブでは、エネルギッシュなパフォーマンスやアップテンポな音楽が求められるでしょう。このように、アーティストのスタイルと会場の特性を慎重に組み合わせることで、双方にとって最適な環境を提供できます。

—拠点として下北沢を選ばれたのはなぜですか?

音楽関連の事業を始めようと考えたとき、自分の好きなものが詰まっていて、ライブカルチャーの中心地でもある下北沢が真っ先に思い浮かびました。調査のために下北沢を訪れた際、ちょうど「SYCL by KEIO」が開業するという広告を目にし、これも何かの縁だと感じてこの街に拠点を構えることに決めました。

 

また、数年前から下北沢の再開発が始まり、街全体から新しいものを生み出そうとする”熱”のようなものを感じたのも大きな理由です。シリコンバレーのように“熱を持った場所“に自分も身をおいて活動をしたいと直感的に感じました。

—「下北沢ミュージックフェア」を開催しようと考えられた背景を教えてください。

1年ほど前から京王電鉄さんと「ミカン下北の施設内でライブイベントができたらいいですね」というお話をしていたことが始まりです。その後、アーティストとステージのマッチングというアイデアを思いつき、ミカン下北や施設内の店舗で演奏を行えば以前から温めていたイベントを実現できると同時に、サービスの検証も行えるのでは? という考えに至りました。開催の2ヶ月前から本格的に準備をスタートし、今思えば結構無茶なスケジュールでしたが無事に開催できて良かったと感じています(笑)。

—ミカン内の店舗や、近隣の住宅やお店との協力も必要な企画だったかと思います。どのように周りの方々を巻き込んでいったのでしょうか?

まず、イベントの開催にあたって演奏の音量が大きな課題でした。特に周辺住民の方からのご理解を頂く必要がありました。幸い、しもきた商店街振興組合理事長である長沼さんを通じて、本多劇場の皆様をはじめ、近隣住民の方々に音量に関するご確認をいただき、ご了承を得ることができました。準備期間が短かったのですが、ご関係者の皆様が迅速に動いてくださったおかげでなんとか開催にこぎつけることができました。

 

以前から参加していたstudioYETという下北沢の実験プログラムを通じて、京王電鉄さんや商店街、ライブハウス、劇場の方々と繋がりを持つことができていたことが大きかったと思います。またSYCLのイベントなどでも時々コミュニケーションをする機会があったことがスムーズな連携のきっかけになったと思います。

 

また、想定より規模が大きくなったため急遽当日スタッフを募ったところ、SYCL会員や京王電鉄職員の皆さんが力を貸してくださり、大きなトラブルもなく無事に運営することができました。振り返ってみると色々な方の支えがあって開催できたと強く感じます。
関わってくださった方々には本当に感謝しかありません。

—年齢も音楽のジャンルも様々なアーティストの方々が出演されていました。キャスティングについてはどんな点を意識されていましたか?

約2週間ほどの募集期間しか設けられなかったのですが、ありがたいことに多くの素敵なアーティストの皆さまからご応募をいただき、選考には正直大変苦労しました。

 

キャスティングにあたっては、応募いただいた方のSNSやYouTubeでの音源や動画、活動履歴をすべて拝見し検討させていただきました。会場の雰囲気にマッチしつつ全体的に音楽性に偏りが出ないよう、そして何よりお客さまに楽しんでいただけるようにタイムテーブルを組んだつもりです。

 

ただ、今回は初回ということで残念ながら見送ったことも多々あるので、次回はより多くの方や様々なジャンルの方に出演していただけるよう調整していきたいと考えています。

—出演者の方々や来場者の方々から寄せられた感想で印象的なものがあれば教えてください。

施設内のスペースでは想像以上に多くの方が足を止めて演奏を聴いてくださいました。小さなお子さんが親御さんの手を引いて座席についたり、喜んで手を叩いている姿を見てとてもほっこりしました。また、多くの海外観光客の方々も演奏を見てくださり、中には家族みんなで踊り出す方もいて、私も思わず一緒になって踊りました(笑)。

 

店舗内での演奏では、普段コンサートやライブに頻繁に足を運ばない方も生演奏に気軽に触れることができたり、食事目的で来ていた方が最初は驚きつつも演奏を楽しんでくださっていたりとポジティブな反応や意見を伺うことができました。お客さんとの距離の近さと直に生演奏に触れるという体験、そこから生まれるコミュニケーションに価値を感じてくださっている姿を見ることができた気がします。

—今後、下北沢を舞台にやってみたいことがあれば教えてください。

「下北沢ミュージックフェア」で店舗数を増やしたり、ジャンルを増やすなどアップグレードした形でまたイベントを開催したいです。また、1回限りのイベントではなく、アプリを通して下北沢中のお店や商業施設内でいつでも気軽に生演奏ができるようにしていきたいです。

 

将来的には、音楽だけでなく演劇やお笑い、様々なジャンルのパフォーマンスを観覧できるようにしたり、イラスト・写真などのクリエイティブ領域でも展示会やワークショップという形でクリエイティビティを発揮できる場を提供していきたいと考えています。

 

Information

取材・文:白鳥菜都  撮影:Kazuma Kobayashi
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ONSTAGE
「いつでもすぐそこにステージのある世界を」というビジョンのもと「スポットライブ」アプリを開発しています。 アプリを通してアーティストは好きな時にお店で演奏ができ、お客さんは身近な場所で気軽に生演奏を楽しめます。 スポットライブの予定やアーティストについてはSNSで随時投稿していますのでぜひチェックしてみてください!
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