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6年ぶりに火を灯す「下北沢サウンドクルージング」—エリアを拡張して見えた“新たな下北沢”

Photo by pei the machinegun

 

下北沢と言えば音楽の街。世界中を見渡してもほかにないライブハウスの密集地で、昭和~平成~令和と長年に渡り、数多くのバンド/アーティストが毎日のようにライブを繰り広げてきた。ライブハウスで働く人々やイベントの主催者たちは日々さまざまなアイデアを絞り出している。メジャーの一線を夢見る者、独自路線で活動を貫く者、そのレイヤーの中で自らの居場所を探す者、彼らを支えシーンを盛り上げることに心血を注ぐスタッフたち。わずか1万平方kmほどの小さな街の中で多様なスタイルや価値観がひしめき合う。その魅力に惹かれ、世界中からこの地を訪れる音楽ファンは後を絶たない。

そんな下北沢で、2010年代に深い爪跡を残したライブサーキットイベントがある。その名は「下北沢サウンドクルージング」。サーキットイベントとは、チケットを買えば複数のライブハウスを自由に回遊できる、いわばその街のライブカルチャーの縮図のようなもの。その中で「下北沢サウンドクルージング」は、ライブハウスを中心にクラブカルチャー/ナイトカルチャーも巻き込んだ、オールナイトのイベントとして多くの人々にとっての春の風物詩になっていた。しかし、2019年を最後にパンデミックもあり開催を休止することに。

時代も変われば人も入れ替わる。イベントはたとえその知名度が大きくても一度休止すると再開することは難しい。それでも「下北沢サウンドクルージング」はその灯を消さなかった。当時を知るスタッフに新しいスタッフも加わり6年ぶりに復活。全15か所のライブハウスと、下北沢線路街 空き地、ミカン下北沢内のBROOKLYN ROASTING COMPANY SHIMOKITAZAWAを会場に、5月24日の昼から25日の早朝にわたって開催された。さらにBROOKLYN ROASTING COMPANY内には、6年前のあの時とほぼ同じ場所に「タワーレコード下北沢店」が期間限定復活した。

「下北沢をちゃんと下北沢のままでいさせたいと思っている人が多い」
インタビュー:藤澤 慎介(株式会社THISTIME 代表取締役)

今回、「下北沢サウンドクルージング」(以下、サウクル)の代表である藤澤氏に復活させた意義、そして下北沢の音楽シーンの可能性について話を伺った。

—下北沢と音楽、その関りと魅力を教えてください。

ミュージシャンのみならず、ライブハウスが色を持って切磋琢磨して独自の文化になっている街なんです。そこにはアートや服や、飲食に従事するハイセンスな個人も密接に絡んでいる。その中で、商業に走りすぎずおもしろい何かが生まれることを許容する絶妙な緩さを持っているところですね。

—サウクルの始まりから、休止した時のことまでの変遷を教えてください。

もともとはJUKEBOXというDJクルーのKawanishiがパーティーという名のなにか大きなことをしたい、と始めたのが「下北沢サウンドクルージング」です。昼から、深夜を超えて朝にかけて行われるというユニークなイベントで「パーティーを続けよう」という合言葉のもと、彼の引退後も数多くのミラクルを目撃しながら継続しておりました。

コロナ禍に入り、数社で構成されていた実行委員会内で話し合い休止し、制限がなくなってからも、委員会含め全く同じ形ではできないことはわかっていましたので、数年は気にはしながらも言い出しっぺがいないという状態だったのかもしれません。

—『下北沢サウンドクルージング』を復活させた理由は?

コロナ禍以降、都内、下北沢でも一気に夜中に営業するお店が減りました。そこで、ライブハウスとかクラブが東京の夜を代表する遊び場なんじゃないかと、ハッと気づいたことが復活させなきゃと思った理由です。 実はインバウンド需要の高まりで、日本人が早々に家に帰ってしまう中、海外からの旅行者たちは「今日、なにかおもしろいライブやパーティーやってない?」と、夜の下北沢を めちゃくちゃ堪能したがっていて。で、それならサウクルやろと(笑)。

Photo by 麗(うらら)

—下北沢線路街 空き地やBROOKLYN ROASTING COMPANYなど、6年前の開催時にはなかったべニューも使用されていましたが、今の下北沢の魅力は?

下北沢をちゃんと下北沢のままでいさせたいと思っている人が多くいることですね。再開発で日本中の駅前が同じような景色になっていく中、下北沢の再開発チームのみなさんは、ここにいる人、ここに来る人たちや街の美しさへのリスペクトがある。ミカン下北とBROOKLYN ROASTING COMPANYの協力で今回、タワーレコード下北沢店が実現したのですが、打ち合わせの段階から皆さんの下北へのポジティブな姿勢や音楽に対する理解があって。それに気づいたとき、「また新しい魅力を持った下北沢が生まれていくのかも!」と思いました。正直に言うと、変わっていく街並みに不信感を持っていた時期もあったのですが、謹んで撤回させていただきます(笑)。

—下北沢でサーキットイベントをやることの意味は?

主催者側の視点でいうと、1000人キャパシティーの会場がないこともありますが、規模が大きすぎないので純粋に見てほしいアーティストにフィーチャーする「一番楽しいブッキング」ができること! これに尽きます。

大きな会場で、人を呼ぼうと思うとどうしても安定に売れていたり、バズって数字持っているアーティストになってしまうので、開催場所が変わっているだけで出演者は変わっていないみたいなことってよくSNSでも定期的に話題になったりしていますよね。

でもそんな人気者もみんなスタートは下北沢だったりします。下北沢はそういう意味では、クセが強かったり尖ったり、熱かったりと未来の人気アーティストがしのぎを削る場所。見たら絶対好きだから、めちゃくちゃ出会ってくれ! という気持ちが下北沢で行われるサーキットには込められている気がします。

—これからの下北沢と取り巻くシーンの動きについて、考えを教えてください。

希望を込めてですが、シーンといった大きなものより、それぞれのアーティストの居場所が確立されてほしいと思っています。今回、私たちが一つ手掛けているアジア音楽のフェス、「BiKN shibuya」から3アーティストをサウクルに招聘した形ですが、たとえばアジアのお客さんが8割をしめちゃうユニークなアーティストがいたりとか。そしたらまわりも「何が起こっている?」ってザワザワしますよね。大きくなくてもそれが居場所として色んなところで確立されていったら、もう一段階シーンの活性化が進む気がします。

レポート:全15か所に拡張。屋内外で繰り広げられる、音楽ライブからお笑いまで

休止前にはなかったべニュー、下北沢線路線 空き地にてリストバンドを交換するところからフェスは始まった。入場無料のエリアでもあるここではK-PRO祭りやお笑いライブ、アーティストによるフリーマーケットなど、音楽ライブ以外の催しも。

Photo by 麗(うらら)

Photo by Pale Fruit

Photo by Pale Fruit

 

同じく入場無料のタワーレコード下北沢店では、アナログレコードやCDを販売。「下北沢サウンドクルージング」オリジナルのコンピレーションCD・カセットも。店舗内で楽しめる音楽ライブも大盛況。ガラス張りの路面店ということで、イベント目的ではない、店の飲食客や道行く人々も、それぞれのパフォーマンスに引き寄せられていた。

Photo by Pale Fruit

Photo by Pale Fruit

街の随所でパンフレットを片手に歩く人々、アーティストやファンが交流している光景が多く見られた。一方、並行して複数のステージが開催されているため、観ることができるライブが限られるのもサーキットだからこそ。好きなバンド、この機会にチェックしておきたいバンドを軸にスケジュールを立てる。その間に偶然目にする名前も知らなかったバンドとの出会いもまたサーキットの醍醐味だ。迷っている時間がもったいない。でも迷うことも楽しい。

 

そして筆者はまず『THREE』へ。インディロックバンドLIGHTRSのインディーポップをルーツに感じるサウンドとグッドメロディとに心温まる。タワーレコード下北沢店を堪能し、再び空き地でゆっくりしたあとは『ERA』へ。沖縄を拠点に活動する3人組HOMEのエポックメイキングかつポップな世界観に浸り、『251』で4人組男女ボーカルバンドCzech No Republicのマジカルポップに心躍り、そのままダッシュで今年30周年を迎えた『BASEMENTBAR』に向かって、タイからのゲストSoft Pineのパフォーマンスを楽しんだ。

 

SPREAD』に移動してBbugsの硬派なオルタナティブロックを浴び、少しのお茶タイムを挟んで向かった先は『下北沢シャングリラ』。深夜帯前のもっとも大きな会場でトリ、泉谷しげる氏を観に。ギター一本、お馴染みのしゃがれた声に痛烈な言葉。その生々しいパフォーマンスはまさに音楽。世代もジャンルも超えた大団円。その当事者になれてよかった。

Photo by 麗(うらら)

Photo by るなこさかい

パーティは朝まで続く

そして筆者は深夜の時間帯へ。下北沢の夜を彩ってきたDJたちのプレイに体を揺らしつつ、バンドとして深夜帯のパーティを定期的に開催し続けてきたパノパナことPanorama Panama Townのロングセット。ダンサブルなロックで大盛り上がり。昼間から動き続けてきた、満身創痍のナチュラルハイ。

だからこそ感じられる、ここが世界のすべてであるかのような自由と達成感。実際にそのくらいハッピーで平和な空間。これだから夜遊びは止められない。「下北沢サウンドクルージング」、来年もオールナイトでの開催、よろしくお願いします!

Photo by Pale Fruit

Photo by Pale Fruit

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東京都実験区下北沢編集部
Shimokitazawa SOUND CRUISING
Shimokitazawa SOUND CRUISING
2025年5月24日(土)
下北沢シャングリラ / 下北沢CLUB251 / 下北沢440 / 下北沢 BASEMENTBAR / 下北沢THREE / 下北沢SHELTER / 下北沢 LIVEHOLIC / 下北沢Daisy Bar / SPREAD / 下北沢MOSAiC / Flowers Loft / 近松 / 下北沢 近道 / mona records / 下北沢ERA / 下北線路街 空き地 / BROOKLYN ROASTING COMPANY SHIMOKITAZAWA
[DAY]OPEN 11:00 / START 11:40
[NIGHT]OPEN&START 23:00
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