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アパレル企業が手がける循環を街にひらく実験──CIRCULABLE SUPPLYが目指す「循環とコミュニティ」

下北沢は古着の街として知られ、街回遊型のファッションイベントやミカン下北内でのファッションショーなど実験的な活動が次々に展開される。2025年4月に新たに実験的なショップがオープンとなった。ベイクルーズが運営するリユースショップ「CIRCULABLE SUPPLY」の旗艦店だ。

 

「CIRCULABLE SUPPLY」は、「お客様とベイクルーズの間に新しい循環サイクルを構築する」をコンセプトに運営しているリユースショップ。いわゆる「古着屋さん」ではない外観を筆頭に、ハイブランドからデザイナーズブランドまで、ベイクルーズスタッフやお客様からアイテムの買取と販売を行っている。オープンして間もないが、アパレルとしての確固たるブランドを築いているベイクルーズはお客様からの信頼も厚く、その審美眼でラインナップしているアイテムを求める人がすでに多く足を運んでいる。単なる“古着の流通”ではなく、“センスの良いアイテムを継ぐリユース”という感覚を生んでいる点が、この取り組みの人気なポイントだ。

 

過去にもこの下北沢で期間限定ショップを開いていたが、この度なぜ旗艦店を下北沢でオープンするに至ったのか、さらにはベイクルーズがこの取り組みにかける思いについて、CIRCULABLE SUPPLYセクションマネージャーの中野拓也さんに話を聞いた。

アパレルが取り組む新しい循環の実験

―「CIRCULABLE SUPPLY」はどんなきっかけで始まった事業なのでしょうか?

きっかけは2019年の「BAYCREW’S FESTIVAL」(ベイクルーズ社が主催する衣食住美のコンテンツが集まったフェスイベント)だったと聞いています。同イベント内の蚤の市で当社スタッフの私物を販売したところ、社内の想像を超えて人気が出たんです。それから、CIRCULABLE SUPPLYが立ち上がり、イベントやポップアップストアとして出店を重ねてきました。

 

出品したスタッフたちからは「愛用していたアイテムを手放したあとに、ベイクルーズを好きでいてくださるお客様の手に渡るのが嬉しい」といった声がよく寄せられますね。お客様のなかにも、ベイクルーズのスタッフの愛用品だからという点に信頼を置いてくださっている方が多くいらっしゃいます。

社内での回収・販売の起点は社員の福利厚生だったという。“内向き”の取り組みが、社外との循環を生み出す“外向き”の経済活動へと発展しているのも、ユニークで実験的な点だ。

―下北沢に旗艦店をオープンする前は、どんな場所でサービスを提供されていましたか?

渋谷、京都、堀江や、一時期は下北沢でもなどで期間限定のショップを展開してきました。ベイクルーズブランドの店舗スペースに余白ができた時などには一時的にCIRCULABLE SUPPLYを出店し、既存の什器などを使うなど、お店作りもサステナブルに行ってきました。下北沢では2020年に一度、期間限定でショップを出しています。当時、私は近くに住んでいたので、前を通りがかってよく見ていました。あまり「古着屋」という雰囲気がなかったので、それが逆に気になってましたね。

―中野さんはベイクルーズ入社前はどんなことをされていたのでしょうか。

私は、新卒からずっとリユース業界で働いてきました。店舗やECのスタッフとして働き、店長として現場の管理やスタッフの管理にも携わりました。ベイクルーズには約1年前にCIRCULABLE SUPPLYのセクションマネージャーとして入社したのですが、定価販売のアパレル企業に勤めるのも、こういったポジションで働くのも初めてのことです。CIRCULABLE SUPPLYをより大きなビジネスとして発展させていきたいという話を聞き、入社を決めました。今は、CIRCULABLE SUPPLYの事業全体を見つつ、買取の対応をしたり、お店に立てる日はお店に立つこともあります。

多様性と変化に溢れる下北沢だから旗艦店をオープンした

―今回、下北沢に旗艦店をオープンすることになった背景は?

下北沢近辺は以前働いたり住んでいたりした場所でもあり、近年もよく遊びに来ている場所でした。たまたまプライベートで古着屋巡りをしに来たときに、今の茶沢通り沿いに空いている区画を見つけたんです。下北沢駅からは少しだけ離れますが、北沢と代沢が入り混じるこのエリアなら、ベイクルーズのファンとなってくださる方が多くいるように感じ、出店を決めました。

―中野さんにとって下北沢は以前から馴染みのある街だったんですね。街にどんな変化を感じていますか?

僕が以前、下北沢で働いていたのは10年以上前のことなのですが、その時と比べるとだいぶ変化を感じます。まず駅前がひらけて、施設が増えました。それに、インバウンドの方が桁違いに増えていますよね。様々な属性の方が遊びに来ているし、若い方も長く住んでいる方もいる。以前にも増して、多様性のある街になったと思うんですよね。そういう街であれば、実験的な新しい取り組みが受け入れられやすいのではないかとも感じました。

―2025年4月18日のオープン以降、来客状況はいかがですか?

予想を遥に上回る来客数で、オープンしてすぐから1週間で1000人近いお客様がいらっしゃいました。30〜50代の女性を中心に多くの方にご来店いただいています。また、物件探しに意識していた通り、お店の近くに住んでいる方も多く来店されています。工事中から「まだオープンしないんですか?」と声をかけてくださる方もいらっしゃいましたね。

スタッフだけでなく、街から循環の機会を広げていきたい

―スタッフさんのアイテムは、店舗へどのように出品されているのでしょうか?

2019年の事業開始時から現在まで、オペレーションは試行錯誤しています。以前は、本社のなかのみで受け付けてましたが、今は、店頭にアイテムを持ってきていただいても良いですし、全国にスタッフがいるので郵送でも受付できるようになっています。

―現在では、スタッフ以外のアイテムも取り扱いされているそうですね。

はい、大々的には打ち出していなかったのですが、実は以前から一般のお客様からの買取もしていました。例えば今年、仙台のベイクルーズストアでポップアップを行った際に、店頭で一般のお客様からも買取を行ったところ大きな反響をいただきました。2週間のポップアップで、2000点ほどの買取を行ったんですよね。

―そういった反響も受けて、一般のお客様からの買取も大々的に打ち出されることにしたんですね。

反響があったことはもちろん、持続可能な循環型社会を目指すにあたって、もっとできることがあるのではないかといった思いが根底にありました。当社では、洋服を扱うにあたって、事前予約のキャンペーンを行なってそもそも無駄な在庫を生まない、廃棄しないといった取り組みを続けています。

 

それに加えて、CIRCULABLE SUPPLYを始めて、スタッフの洋服は循環させられるようになってきました。その次のステージとして、一般のお客様からの買取も強化し、事業を拡大していく方針になりました。挑戦的な取り組みですが、2020年の下北沢での期間限定ショップを含め、これまでにも実験を重ねてきたので、これからさらに力を入れていきたいと思っています。

―実験というと、買い取り以外にも「PASSTO(パスト)」も設置されているそうですね。

はい。店内に設置した「PASSTO」のボックスに不用品を入れていただくと、回収・選別されて、次のユーザーの手に渡ります。CIRCULABLE SUPPLYで買い取りして、次の方に売るという方法も一つの循環ですが、ビジネス的なやり方だけではなく、他の可能性も広げていきたいと思い、導入を決めました。さまざまな方法で循環を広げていけるようにできればと考えています。

店内に設置された「PASSTO」の回収ボックス。使わなくなった衣類を気軽に手放せる仕組みで、循環の入り口を広げている。当店では“売る・買う”に限らない循環の選択肢として導入されている。

「循環とコミュニティ」を生む場所としてのCIRCULABLE SUPPLY

―実際にお店に入るといわゆる「古着屋さん」っぽさをあまり感じませんでしたが、どんな工夫をされていますか?

ガラス張りの外観に、内装は白とベージュを基調にし、とにかく女性が入りやすい、朝のようなヘルシーなイメージです。いわゆる「古着屋さん」ぽさはないかもしれませんが、当社がやるのであればこの形がベストだと考えました。ご夫婦やお子さん連れでいらっしゃったお客様も過ごしやすいように、店内に椅子を多めに置いています。他にも、通路を広めにしたり、試着室を多く設置したりといった工夫をしました。

 

また、10時開店と下北沢では少し早めの時間に設定しています。意外かもしれませんが午前中から来店されるお客様も多いです。接客スタイルも、一般的なリユースショップと比べると積極的にお客様と話すスタイルです。ベイクルーズのファンとして来てくださる方もいらっしゃるので、お客様と話しつつ、それぞれに合ったアイテムを提案できればと考えています。

―今後、CIRCULABLE SUPPLYはどんな展開を予定していますか?

まずはもっと多くの方にCIRCULABLE SUPPLYを知っていただく必要があると思っています。そのため、年間通してさまざまな場所でポップアップを開催する予定です。すでに全国にあるベイクルーズの店舗を活かしながら露出を増やしていきたいです。その延長上で、下北沢の旗艦店にも足を運んでいただけたら嬉しいです。

―下北沢という場所を活かしてやってみたいことはありますか?

直近では、古着祭りに参加しようとしています。下北沢にはこういった地域のイベントがたくさんあると思うので、我々も積極的に参加したいです。日頃お世話になっている街を盛り上げられるのであれば、力になりたいです。また、アパレル同士の繋がりはもちろん、飲食店など異業種とのコラボも積極的にしたいと個人的には思っています。

―CIRCULABLE SUPPLYを含め、ベイクルーズのリユース事業の先で、どんなことを目指しているのでしょうか?

CIRCULABLE SUPPLYを含むベイクルーズのリユース事業では、単に中古品を販売することにとどまらず、リユースの価値そのものを見直してもらえるような提案を目指しています。

 

現状、リユースに対して「汚れていそう」「人が使ったものは抵抗がある」といったネガティブな印象を持たれる方も少なくないです。特にファッション感度の高い女性層の中には、今まであまりリユースに馴染みのなかった方も多いと感じています。しかしリユースは、環境配慮という社会的意義に加えて、他にはない一点モノとの出会いや、自分らしいスタイルの再発見のような「個性の表現」としての魅力も備えています。そういった点から、リユースを前向きに楽しんでいただけるお客様を少しずつでも増やしていきたいと考えています。

 

最終的には、新品とリユースをシームレスに使い分けることが当たり前となるような購買体験を実現したい。その実現に向けて、ベイクルーズらしい感性と仕組みで、リユースのイメージそのものをアップデートしていきたいと考えています。

Information

取材・文:白鳥菜都  撮影:YUKI KAWASHIMA
CIRCULABLE SUPPLY 下北沢店
CIRCULABLE SUPPLY 下北沢店
住所:東京都世田谷区代沢5-30-2 1F
電話番号:03-6629-1362
営業時間:10:00~20:00
定休日:不定休
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