“遊ぶように働く”を体現したワークプレイス「SYCL(サイクル) by KEIO」がミカン下北内に誕生する。そのプロデュースと運営を担うのは、オフィス移転支援や企画実現のサポートを行うヒトカラメディアだ。“「働く」と「暮らす」をもっとオモシロく”を掲げる共創支援カンパニーは、下北沢に生まれる新しいワークプレイスに、どんな未来の構想を描くのか。高井淳一郎さん(代表取締役)、田久保博樹さん(取締役)、影山直毅さん(SYCL by KEIO 責任者)、馬場澄礼さん( SYCL by KEIOコミュニティマネージャーに、それぞれの視点からの考えを聞いた。
誰かの“やってみたい”が街とつながるワークプレイス
ヒトカラメディアの事業内容とコンセプトを伺えますか?
高井:「ヒトカラメディア」は、主体的にチャレンジをする人やチームを増やしたいというコンセプトのもと、オフィスの場作りや、街作りのビジネスをしています。具体的にはオフィスの移転の仲介、内装、施設のプロデュースや運営など。場所選びも、どんなシーンを作りたいのかクライアントと一緒に考えながら進めることが多いです。未来像を後押しできるきっかけが作れたらと思いながら事業を進めています。
SYCL by KEIOの企画の経緯を教えてください。
高井:もともと京王さんから「下北沢に面白い企業を呼びたい」というお話をいただいて。下北沢は飲食店や店舗物件が多く活力があるものの、スタートアップなどの企業も呼べないかというのが最初のご相談でした。2年半ほど前から検討を始め、2020年秋頃から「SYCL by KEIO」という場所を作るという形で具体化していきました。ヒトカラメディアは“「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロく”というミッションを掲げています。今まで都心部以外も含め様々な地域でトライしてきましたが、下北沢という独特のポジショニングには魅力を感じましたね。
また、街での取り組みを自分ごととして体感するためにも、ヒトカラメディアも自ら実験台になろうという気持ちで、中目黒から下北沢にオフィスを移転しました。ここで実体験として得たリアルな情報や体験は、自分たちがここをプロデュースする上でも役立っています。
ワークプレイスとしての特徴を伺えますか?
田久保:SYCL by KEIOは、Shimokita Yellow Creative Lounge の頭文字から命名した施設で、街に循環(サイクル)を起こしていく起点の場になるようにと想いを込め、京王さんと一緒にコンセプト作りを進めてきました。個人から小規模の企業までの働く環境をフルラインナップで揃えた、コワーキングスペース・シェアオフィス・スモールオフィスです。
馬場:SYCL by KEIOは、「誰かの“やってみたい”が街とつながる」というコンセプトの通り、街との関係性がポイントです。すでにミカン下北の店長さんたちとのつながりが生まれていますし、ミカン下北の開発をきっかけに、街の人・商店街の方々、地域メディアの方々ともつながった状態からスタートできるのは他にはない特色かなと思います。そういった方々と我々がしっかり点と点をつないで線を作ることで、会員の方が何か「やりたい」と 言った時に、SYCL by KEIOを超えて街の人とも繋がるムーブメントが起きやすい環境があります。
プレイヤー×アセットでチャレンジが実現化する
街やミカン下北におけるSYCL by KEIOの役割についてはどのようにお考えですか?
影山:僕は仕事柄、街の人たちとの交流が多いのですが、下北沢ってやりたいことに向けて動き出している人はもちろん、これからやりたいと思っている人、応援する人もたくさんいるんです。そうした「人」から「コト」を起こすために、やりたいプレイヤーをどう発掘しどう繋いでいくのか、誰とどう交差させるのか、そもそも想いを持っている人自体を増やすためには…。そこを考えアクションしていくのが僕らの役割だと思っています。
田久保:下北沢は他のエリアに比べても潤沢な“人のリソース”があるんですよね。「何かやってみよう」を誰も止めない街。誰かのやりたいことが街に増え続けた結果、今の状態になっているというか。
街の文化としてアドバンテージがあるんですね。
高井:街とつながって何かを生み出していくためには、“プレイヤー×アセット”という考え方が大事だと思います。プレイヤー同士をSYCL by KEIOの中だけで繋ぐのではなく、ミカン下北や街にある資産=アセットと掛け合わせて何ができるか、という視点に立つことがポイントだと思います。
馬場:私は開業後にコミュニティマネージャーとしてSYCL by KEIOの会員とのハブ役になるのですが、人とアセットをつなげるためには、個々人についてよく知ることも大事です。何気ない会話を大切にすることはもちろん、たとえばこの施設のグッズのアイデアやデザインを募集して、会員さんの興味や価値観に触れられるような機会も作れたらと思います。
影山:そうやって個人のリレーションを積み重ねて、開拓しまくることは大事ですよね。施設内外のプレイヤーのやってみたいこと、スキル、リソース、経験等をたくさん知っていることは、我々のような“つなぐ担当”にとって必要な要素です。
“楽しい!”でグルーヴを起こす存在でありたい
新しいチャレンジは、当事者にとってはなかなかエネルギーがいることなのではと思いますが、一歩踏み出してもらうためには、どんなアプローチが必要だと思いますか?
田久保:大きく3つあると思っています。まずは”楽しい”ことを入口に始めること。「課題を解決しよう!」よりも「これ面白そう!」の方が人は動きますし、たとえその本質が課題解決でも、入口を楽しくすると全然捉え方が変わってくるんです。
2つ目は、コトをおこしたい人を見つけるために“耕す”こと。何かをやりたいと思っていても実際にアクションまでいける人って実はそう多くはないし、まだ表に出ていない、人それぞれの「こういうことやってみたいな」があるはずなので、それらをひとつひとつ掘って集めていくことが必要だと思っています。
そして3つ目は、何かコトが起こったときに、周囲の人が巻き込まれやすい状況を作り出していくこと。何かに巻き込まれたゆえに、自分一人だと遭遇し得ない経験をして新たな可能性が花開くような、良い意味での“巻き込み事故”みたいなものをSYCL by KEIOの施設側でナチュラルに起こしたいですね。
影山:全員が発案者や実行者ではなく、巻き込まれて本領を発揮する人もいますもんね。誰もが一人目で踊れるわけじゃないですから。それぞれの人が輝く要素を発掘して、全体としていかにグルーヴ感ある場所にできるか。そういう場所こそ、稼ぐための仕事から先に踏み込んだ「働く」と「遊ぶ」が融合した理想的なワークプレイスだと思います。
高井:皆を参加させるためにどうやって“自然な流れ”を作るかは、僕らがすごく意識する部分。個人の興味関心(=遊ぶ、に近いもの)を知って、そこから広げていくのはまさに自然なことなので、そういう意味でもミカン下北の“遊ぶと働くの未完地帯”というコンセプトに乗って、僕らも仕掛けていきたいです。
今後、下北沢を舞台に実験してみたいことを教えてください。
影山:下北沢の街に遊びに来た若者が多様な職種の人と交わる機会を作る実験ができたら良いなと思います。大型施設でやるようなかしこまった就職説明会ではなく、もっと自由でリアルな交流ができたら、下北沢らしいイベントになるんじゃないでしょうか?
田久保:僕がSYCL by KEIOの企画段階から頭にあったイメージは、アメリカ・オースティンで毎年開催される大規模フェス「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」。音楽、映画の他に様々なテクノロジーも体験でき、ビジネスに広がる展開もあったりする、デジタルとアナログの要素が同居した“ごった煮”の世界観がある。それってどこか下北沢に通じるものがあるし、この街でもライブハウスや演劇の次の体験をオープンに議論したり、テクノロジーを絡めるアイデアがあっても良いんじゃないかって。SXSWのような風土作りに我々が貢献できたらいいなと思います。
高井:何よりも僕ら自身がこの街を楽しみながら、楽しそうなところを街の外にも見せていき、より多くのプレイヤーに参加していただけたら本望ですね。