2024年12月16日(月)、『studioYET』の最終発表会が開催された。『studioYET』とは、「誰かの“やってみたい”を0.5歩前に進める」がテーマの実験応援プログラムである。
【参考記事】
妄想を実現する実験の場「studioYET」発足の裏側と活動レポート
『studioYET』が始動したのは2022年。第0期からこれまで、様々な企画が実現してきた。第5期となる今回は、過去最多となる7組が参加。約3か月かけて各々のプロジェクトを推進してきたうえでの、7者7様の最終報告会の様子をレポートする。
7組それぞれの野望
『studioYET』の事務局として、参加者の「やってみたい」を実現するべく伴走するのが、京王電鉄とヒトカラメディア。参加者たちそれぞれのアイデアに合わせ、下北沢駅前の施設「ミカン下北」や、シェアキッチン「つながりキッチンPONY」のほか、さまざまなプレイヤーがプログラム連携アセットとして参画している。

豊富なプログラム連携アセット

プロジェクト伴走者の影山直樹さん
『studioYET』第5期がスタートしたのは、2024年10月のキックオフイベント。事前面談から始まり、その後11月の中間発表を経て、12月16日に最終発表会が開催された。
参加者7組のプロジェクトは下記の通り。
●平本一星さん:テーマ「北海道と沖縄の素材でコラボした無添加・天然由来のドリンクで下北沢のワーカーを健康にしたい!」
公務員志望者向けのスクール・株式会社セレクトエージェントを経営する平本さんが提案するのは、1杯で必要な栄養素を摂れるグリーンドリンク「NORTH&SOUTH」の開発。

平本一星さん
これは、北海道と沖縄の素材を使った頑張る人を応援するためのドリンクブランド。平本さんは、自身が北海道と沖縄にワーケーションで通った経験から「現地の恵みをつかって頑張る人を応援したい」という想いを抱くようになったそう。また、毎日飲んでいるサプリに対する「海外製が多い」「美味しくない」……といった課題感もドリンク開発への想いを後押しした。

ロゴも決定。デザインはミカン下北内にあるコワーキングスペース「SYCLbyKEIO」へともに入居するデザイナーの安川さんが担当
すでに製造工場を決めるなど具体的に活動を進めているほか、『studioYET』で試飲会を重ねてリアルな感想を募るなど、5月の販売スタートに向けて精力的に活動中である。

試飲会の様子
●あたらしいチーム:テーマ「あたらしいファンド」
「あたらしいチーム」とは、2024年9月末にできたデザイナー&コンサルチーム。誰かが挑戦したい“あたらしいこと”をサポートし、夢を語るだけでなく叶えるところまでを伴走するためのチームである。プロジェクトは大きくわけて3つ。ひとつが仲間と一緒に新規事業をつくるコミュニティ「あたらしいチャンネル」、2つ目が地域の特産品を有形から無形にすることでさらに素晴らしい街づくりを目指す「無形特産品」、3つ目が「あたらしいファンド」である。

あたらしいチーム・安川宏輝さん
「あたらしいチーム」での活動事例として、12月5日に下北沢を歩いて街中全体で行う立体型ワークショップ「シモキタ調査団」を開催した。時間をかけて歩いたことで「下北沢は工事が多い」「工事のコーンをメディアとして活動したら面白いのでは」など様々な意見が出たそう。ほかにもチームメンバーの特技を来場者に提供して楽しんでもらうリアルイベントをミカン下北1階のイベントスペースで実施するなど、下北沢を拠点に活動を広げている。
●黒田正信さん(しもブロ):テーマ「真の下北沢土産を作りたい!」
黒田さんが運営する『しもブロ』は、下北沢のありとあらゆる情報を発信するローカルメディア。グルメやイベント、カルチャーなど様々な情報を日々発信している黒田さんは、下北沢のスペシャリストである。しかし、そんな黒田さんでも「下北沢のお土産といえば?」は思いつかないそう。ということで、黒田さんが『studioYET』を通じて実現しようとしているのが「真の下北沢土産」をつくること。
下北沢には、老舗から新ランドマークまで様々な“下北沢らしさ”を感じるスポットがある。新旧のプレイヤーたちが織りなす独特の雑多さこそが、下北沢。『studioYET』5期での活動を通じて黒田さんが実現しようとしたのが、「下北沢ご当地缶バッジ」の制作だった。黒田さんが「下北沢ご当地缶バッジ」に感じている可能性は、まず「おせんべいは食べたら無くなるが、缶バッジは長く身につけてもらえる」こと。そして、黒田さん自身が強く「欲しい!」と思っていること。完成した缶バッジは、ガチャガチャで購入できるようにしたい……と、構想は広がる。
下北沢を代表する10スポットから許諾を得なければならないということで、黒田さんが立てた目標は「中間発表までに参加店舗を確定」させること。しかし交渉がスムーズに進まない店舗も多く、最終発表時点でも交渉は続いていた。最終発表までに、京王電鉄・小田急電鉄という下北沢2大電鉄の参加意思に繋げる結果に。
黒田さんは、『studioYET』第6期への参加も表明。引き続き各店舗と交渉を続けていくとのことなので、缶バッジ完成をお楽しみに。
●アサレン:テーマ「下北沢を拠点に活動するアイドル『アサレン』が下北沢を舞台にアニメを創る!」
アサレンとは、『studioYET』第3期で生まれた下北沢のご当地アイドル。下北沢を紹介する『studioYET』第3期で生まれたYouTubeチャンネル「THE 下北沢REPORTER」でリポーターを務めるなど、精力的に活動する2人組の女性ユニットである。
▼(動画)カレーの街 下北沢を象徴するイベント【下北沢カレーフェスティバル2024】アサレンが事前リポート!

アサレン・真朝さん
今回アサレンが掲げたのは、「下北沢が舞台のアニメ」をつくること。メンバーの白連がデザインしたキャラクター「びーたんtoまーちゃ」を主人公に、「どんなことにも『寛容』が勝つ」というテーマで4コマ漫画をつくるという。

びーたんtoまーちゃ
「びーたんtoまーちゃ」が主人公の4コマ漫画は、2025年1月から始動。下北沢のエピソードを募集し、集まった案からストーリーをつくるのだという。最終発表会では、「『びーたんtoまーちゃ』を動かすことができた!」と発表。目標は、京王電鉄のサイネージで起用されること。「今月下北沢で開催されるイベントはコチラ!」のように、下北沢のご当地キャラクターとして活用してほしいとのこと。ご当地キャラクターとして目指すのは、熊本県から全国区のご当地キャラクターとなった「くまもん」。今後は、下北沢のカルチャー発信地・ヴィレッジヴァンガードにコミックを並べたいと展開を意欲的に明かした。
●榊谷隼也さん:テーマ「恋愛相談所をおこしたい!」
会社員として働いている榊谷隼也さんが提案したのは、新しい切り口の恋愛相談所。従来の恋愛を目的としたマッチングアプリの非効率性を課題とし、友人介在型の新しいマッチングプラットフォームをつくることを目的にしたという。

榊谷隼也さん
友人介在型のマッチングプラットフォームとは、友だちと一緒にアプリをスワイプし、二人1ペアで恋人を探せるアプリのこと。介在してくれた友人へのギフト機能を検討するなど、全員にとって旨味のある仕組みを検討している。初回発表でアイデア決定、中間発表でのブラッシュアップを経て、4月にアプリをリリースすることを目指している。発表を聞いた参加者たちからは「最近は恋愛を休んでいるので、アプリのリリースが楽しみです」など前向きなコメントが寄せられてた。
●野原圭以さん:テーマ「まちの保護者懇談会を開催したい!」
保育士やベビーシッターとして長年働いてきた野原圭以さんが掲げたテーマは、「まちの保護者懇親会」の開催。現場をよく知る野原さんいわく、保護者懇談会は、お互いの悩みを共有し話すことでリラックスできる機会。それを“まちの中”で実現するのが、『studioYET』を通じた目標だ。

野原圭以さん
しかし、11月30日に開催を試みるも集客に苦戦したそう。最終報告会では、野原さんが3か月間活動してきたことを踏まえた反省点を発表。たとえば、保護者懇談会の冠に「下北沢」と付けたことで参加者の幅を狭めてしまったという仮説。また、そもそも「保護者懇談会」というタイトルが堅いのでは……と、具体的な改善案がいくつも見つかった様子。また、同じく『studioYET』第5期メンバーの荒谷さんとのコラボレーションも実施。荒木さんが開発したアンケート投稿アプリ『口コレ』の活用も行ったという。当面は課題である「集客」に焦点を絞り、3ヵ月かけて集客に向けて行動するとのこと。
●荒谷賢太さん:テーマ「口コミ・コレクター/口コレ」
荒谷さんは『studioYET』参加期間中に、大きく企画の軌道修正を行った。当初掲げていたのは、地域の課題と妄想をAIでつなげるマッチングアプリの開発。実際に下北沢で仮運用を始めたところ、目立った課題は「タバコのにおい」。しかし設備投資が必要なためハードルが高く、現在は世田谷区に提案中とのこと。

荒谷賢太さん
ピボットした企画は、前述のアンケート投稿アプリ『口コレ』。これはLINEで口コミを集めるツールで、野原さんの企画用に再開発をしたもの。このアプリを開発したことで、新たな仕事にもつながった。それは、渋谷区のさくら坂イルミネーションフォトコンテスト。写真収集のすべてを『口コレ』で行うことで、コンテスト開始から2週間弱で約40名の登録者を確保できたとのこと。
アセットや人とのコラボレーションに魅力
最終報告会終了後は、『studioYET』メンバーと観覧に訪れた参加者たちによる懇親会が行われた。

懇親会の様子
懇親会で活発な意見交換が行われているなか、5期参加者である平本さんからコメントをいただいた。『studioYET』に参加しなくともプロダクト開発に向けて自走できるポテンシャルを持つ平本さんが、『studioYET』に参加する意図とは?
―平本さんは、なぜ『studioYET』に参加したのでしょうか?
『studioYET』に参加することで、アセットを活用できることにメリットを感じていました。あと京王電鉄さんやヒトカラメディアさん、まわりのフリーランスや経営者の皆さんとコラボレーションできることも、大きなメリットですね。ひとりでプロジェクトを進めるのとは、全然推進力が違います。『studioYET』で報告することは、つまり自分の事業をまわりに公言するのと一緒。すると、いろんな人が「こういう人知ってるよ」とか「実は僕こういうことができるよ」と言ってくれるので、アドバイスをいただける機会もすごく増えました。
―アセットはすでに活用されているのでしょうか?
プロダクト完成後、シェアキッチン「つながりキッチンPONY」を無償でお貸しいただけることになっています。あと僕が開発するのは朝活を応援するドリンクなので、ミカン下北の「BROOKLYN ROASTING COMPANY SHIMOKITAZAWA」とコラボした取り組みも検討中です。
印象的だったのは、平本さんの、『studioYET』に参加することは「自分の事業をまわりに公言するのと一緒」という言葉。事業を公言することで応援してくれる仲間が増え、自身が抱く「やってみたい」を実現するまでのスピードが加速しているように感じる。
今後は、『studioYET』第6期が始動予定。今回の参加者はもちろん、今後のYET参加者たちの躍進に注目を。